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虚無の香り

 ELCがブラック・スワンを去って自室を取り戻した美咲だが、一年もの間自室として使っていた艦橋の居心地の良さから、彼女は自然と艦橋で過ごす。星を眺めながら、深宇宙についても漠とした思いをはせる。そこへ、先日購入したスラックスをはいたサスキアがやってくる。彼女は無言のまま、美咲のとなりの航法席、彼女がプロフェッソーレと呼ぶエリックの指定席へ。音もたてずに深呼吸。

「サスキア…エリックの香り、落ち着く?」

 ベリーショートの金髪すら染まりかねないほど、白い顔が真っ赤になる。本当にエリックを慕っているとわかって面白い。しかし、美咲にとって彼女の心をそこまで乱すことは本意ではないので、慌てて話題を変える。

「この船は気にいった?」

 サスキアは今度は口から深呼吸をして話始める。「小さいころから背が高かったし、いっつも髪の毛を刈ってたから、自分でも男の子だと思ってた。それが成長すると、胸とか出てくるじゃない?周りの人の戸惑いも、あたしに流れ込んでくるの」

 美咲はうなずく。

「最近は、落ち着いてきてたけど。いずれにしても、異物を見る目で見られるのは慣れたとはいえ、好きにはなれなかったわ」

「それはあまりいい気分ではなさそうね」

「エリック、プロフェッソーレ、あの人、セリアやあたしに偏見もってない。怖いとも思ってない。というか、テレパスやエンパスを知っている。むしろ…好ましいとすら思っている。だから気持ちを隠そうとしていないの」

「そうよ」

「すっごく安心するし、気が楽」

「それはよかったわね。あなたが自分の居場所だと思えるといいわね」

「ヴァレリーは、完全に母親。セリアについてだけでなく、あたしについても無条件に愛してくれている」

「ヴァルらしいわ」

「マーカスのことは最初恐ろしいと思ったの。大きいし、ちょっとコンステラツィオーネにもいるタイプにも見えたし。でも心のうちは、とっても平穏。セリアとあたしの心の状態をとっても関心を持っていてくれてる。海兵隊で、仲間を亡くしたことも関係あるのかな」

 彼は、いわゆる戦うお医者さんでもあるし、仲間を気にかけることが二重に染みついているのだろう。彼の生来のやさしさも加われば三重か、と美咲は思った。

「みんな、あなたたちのことを気にかけているのよ…先日の、その…爆発時の恐怖の感覚はどう?」

 サスキアは身震いする。

「ちょっと説明が難しいけど、私にはオルディナのヴァースのつながりがあったから大丈夫。むしろ、私よりセリアの方がつらいかも」

「そっか」美咲も、理由はわからずとも、セリアの方にショックが大きかったのではと感じ取ってはいた。「それより、あなたの世話をしてくれた人とかはどうなっちゃったかわからないわよね…その方がショックよね…たとえあなたの自由を奪っていた人たちでもさ」

「自分でも整理がつかないの。あなたと宇宙を跳んで逃げた体感はある。でも司令船が爆発したことは体感していないし、ただ知っているだけ。恐怖の感情を受けたことは、ヴァースのおかげで緩和された。だから、あの人たちがいなくなったことについて実感が薄いのかも。それか私が薄情なだけかも」

「あなたはよく自分のことを見つめられるわね。いつも感心するわ」

「そういうことを安心して考えさせてもらえることに本当に感謝してる!だから、この船のこと、船のみんな、とっても気に入ってるわ。なんと言っても、あなたが率いてるから」

「あたし?あたし何かしているのかな…?」

「あなたは生来の表裏のなさ。もっとも気が楽。それが伝染しているわ」

「うっ…あたしちょっとバカだからね…高校時代にはヴァルにもよく言われたの。好き嫌いがまるわかりだって。エンパスたちがそれを好むのはうれしいわ。なんか少しだけ救われた感じ」

「あなた、どうしてそこまで偏見がないの?たいてい、育つ家庭で何かしらあると思うのよ」

 美咲の過去を尋ねてくる人は少ない。

「偏見がないわけではないと思うわ。あたし、バース・トラウマがひどくてさ、健全な幼少期を送れなかったのよ。高校生の時に家族と離れて、トラウマ解消して、そこから自分で自分を作り直した感じ。だから、幼少期に植えつけられるような偏見がないのかも…そして、未だにまだ大人になり切れてない。なんか変なこと言ってごめんね、サスキア」

「そんなことないわ…なんか、あたしと似ているかも。」

「特に理由はないけど、うれしいわ」

 セリアが美咲を親友と思うとするなら、サスキアは美咲を幼馴染と思うというところだろうか。美咲はそう考えつつ、閉じた環境で育った二人が、同世代の安心できる友人を持てなかった不幸を呪う。その時、ふと過去のセリアの言葉を思い出す。

「そういえば、カルディナル男爵が言っていたらしいわ、『セリアは特別、サスキアは優秀』って。どういう意味なのかしら?」

「あたしも、同じ言葉を男爵から聞いた。あんまり深く考えたことなかったわ」サスキアは、女の子らしいしぐさで小首をかしげる。「テレパスやエンパスって、それぞれ能力の強さや範囲だけでなくていろんな特徴があるから、男爵から見たらセリアが特別に見えて、あたしの何かの能力が優秀に見えたのかも。実際、あたしには司令塔としての送信能力はあったわけだし」

 サスキアは自分が道具として見られていたことを思い出し、身震いする。

「最初あたしは、セリアはエンパスと言う意味だけではなくて、男爵にとっては女性として特別という意味だと思ったのだけど。でもあなたも美人さんだしね~同じような特別感あるのよね~」

 サスキアはゆがんだ笑みを浮かべる。

「男爵はゲイだったから、そんなことはないと思うわ」

「そ、そっか。で、二人でマイケルを取り合ったりしたの?」

「うーん、ホームとしてのヴァースを共有する相手としては、いろいろなことが筒抜けの部分もあるからね…なんと言うか、家族のような感じがしてたわ。ただ、バウンダリーがきちんとある上での個々のつながりと言う意味での家族とその一員という感じというより、むしろ一人の多重人格者のうちの一つの人格的な…いやちょっと違うわね。また考えとく!」

「サスキアって、頭いいよね。この後、大学とか行きたい?」

「うーん。何かこれという学問を学びたいという欲求は今はないの。将来なりたい存在と言うのも同じく思いつかない。美咲のような実力組織で鍛えられた人になりたいとは思うけど、それはあたしの見てきた世界が狭いからそう思うだけかもしれない。だから、普通の人の社会に飛び込んでゆっくり将来のことを考えるためと言うことで、大学生活には興味はある。けど…今はあなたたちと離れたくない気分!」

「急かすつもりはないわ、サスキア」

「ありがとう。でも、私も何かの役に立ちたいわ。例えば、せっかく艦橋に私の席を作ってもらったんだから何か役割をこなしたい」

「それは素敵なアイデアね。一応、あなたの座席は通信席と言うことになっているわけだし、通信やセンサーの読み方ならあたしも教えられないこともないよ」

「ありがとう!早速教えて」

「今から?長くかかるし一日では済まないから、焦る必要はないわよ?」

「美咲さえ困らないなら、今からがいいわ!」

「お~やる気があっていいわね。エリックの香りをかぎに来たはずが、とんでもないことになっちゃったけど、今さら後悔しても遅いわよ~」

 美咲は、通信席の教本か何かがなかったか、床下のロッカーを探りはじめる。

 サスキアは、美咲の香りをかぎに来たということは黙っていることにした。


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