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象の苦笑い

 救出と離脱という交感神経優位な活動が終わり、イスファハン星系へ向けたジャンプ・ポイントへ向かう道すがら、スワンズはほっと一息つく。サスキアは脱出の緊張とテレパスとしての交信などの疲れから、艦橋で寝てしまっていた。美咲は、エリック、ヴァレリー、マーカスをコモンズに集める。

「さて、セリアも寝たわね?」

「もう子供じゃないんだから、なかなか寝るのを待つのも大変よね。というか、正直寝ていても精神感応的に何か感じてるんじゃないか心配だわ」

 コーヒーをすすった美咲は、小さな咳払いをして話し出す。

「ここしばらくで気づいたのは、3人ともあたしとしか寝ないってことよ!」

「相変わらず唐突な話題ね」

「よく気づいたな」

「そりゃ気づくよ!あたし、ヴァルとみんな寝ると思ったわよ…」

「私、基本的に男性不信だから。10代で子供産まされてからなおさら」

「なんかあたし、性のはけ口になってない?おもちゃにされてない?そりゃあ、あたしが嫌だと言ったらみんな迫ってはこないんだけどさ」

「あなたに無理に迫るなんて、そんなことあるわけないじゃない」

「そうだろうけどさ、でもなんかもやもやするのよ」

「でも安心もするんだろ?」と、マーカス。

「そりゃまあ…ね」

「3人とも、それぞれ違うだろうしね」と、エリック。

「そりゃまあ…って、どういうこと?まさかみんな赤裸々にあたしの性生活のコト、話してないわよね?!話題になんかしてないわよね?」

「時々、ちょっと、くらい?」ヴァレリーが小首をかしげて言う。

「何なのよそれ、ヴァル!信じらんない!」

「冗談よ、美咲!話題の種になんてしてないわ。あなたがいろんなことに真剣だから、からかいたくなるだけ。みんな、あなたのことを好きってだけよ。」

「…そう…なのかなぁ」

「わかってくれないなら、一度みんなでする?」

「え?…ええっ?!」

「みんなでいっぺんに、美咲を大切にするの。好きであることを表現するの。どう?」

「え?どうって言われても…あたし、心の準備が…というかあたし混乱する…」

「冗談よ、美咲」

「くぅ~なんか腹立つなぁ!」

「美咲、本当にかわいいわね~」

「あたし、真剣なだけなのに!慎みだってホントはあるのに!」

「わかってるさ、美咲。そもそも君は、このスワンでみんなが不和になることが嫌だったんだもんな。別に全員で乱交したいわけでもないんだもんな」

「ら、ら、ら、乱交…そ、そんな言葉スワンで使わないで。そんな言葉、心に浮かんだこともなかった。も、も、もしかして、まさか、エリック、そ、そんな経験が…」

「要するにさ、美咲はおれたちと寝るのに抵抗あるんだろ?」

 美咲は深呼吸する。

「抵抗があるって言いきっちゃうことには抵抗がある。みんな優しいしさ、あたしのこと好いてくれてることもたぶんわかってる。でもいろいろ考えちゃうのよ」


「ヴァルと寝るのはいいんだけどさ、女の人とする良さを教えてくれたし。でも、セリアがあれだけあたしを友達みたいに思ってくれてることを考えると、ヴァルとあたしが寝るのってセリアにとって母親と友人が寝てるってことじゃん。ちょっとそれってトラウマになりそうな話じゃない?」

「なるほど、そう考えたのね」

「マーカスと寝るのはいいんだけどさ、優しくおおらかに抱かれる良さを教えてくれたし。でも、セリアがマーカスを父親のように考えているのも知ってる。するとさ、マーカスとあたしが寝るのってセリアにとってマーカスが浮気しているようにも見えるわけじゃない。ちょっとそれもマーカスに悪いし…」

「俺に気を使ってくれるとは考えてもなかった」

「エリックと寝るのはいいんだけどさ、中も外もつながっている不思議な感覚になるし。でも、エリックは実質はスワンのリーダーで、あたしと特別につながっているのってなんかひいきしてもらっているみたいでいやなのよ。体でつなぎとめているみたいでさ。それこそセリアにとって大人としていいお手本じゃないと思うの」

「あなたにしてはよくしゃべったわね。」

「もう!要するに、私はみんなそれぞれと寝るときにいろいろと考えてしまうわけよ。あたしだって複雑なことを感じているわけよ」

「美咲、お前の考えってみんな俺たちのことを心配しての話だろ。お前自身はどうしたいんだよ。お前自身は」

「あたしは…あたしは…」

 美咲が何事かを発しようとしたとき、美咲と同じくらいの背丈の華奢な姿がコモンズに現れる。

「セリア!」


 セリアには、お酒の入っていないコーヒーが注がれる。彼女はすまし顔で、そこそこ成熟しているはずの大人たちの中で、背筋を伸ばして堂々としている。

 ふと美咲は、セリアにとっては友人が援助交際しているようにも見えるのかもしれないと考え至り、一人頭を抱える。

「いつから聞いていたの、セリア」

「最初っからよ、お母さん」

「ああ~ダメなことを言っているダメ母親よね、私~」ヴァレリーはセリアの前ではクールでも、シニカルでも、取り澄ますこともなくなる。

「私ももうすぐ18歳なんだし、気にしないでよ、お母さん。」セリアはむしろすまし顔だ。「それより、美咲、あなたいっつもすっごい幸福な気持ちで抱かれているのよ。違ったタイプの幸福感!」

「はぁ?!何の話?」

「でも、頭が回りすぎるから、さっきみたいにいろいろ考えちゃうのよ。もっともっとみんなの愛で包まれていいの!私も包みたい!」

「ちょっとセリア、あたしよくわかんないその展開…」

「冗談よ」

「くふぅぁあぁ~冗談のセンスも母親ゆずりかぁ!」美咲はのけぞる。

「私のことを考えてくれてるのもわかってる。ありがとう。美咲のこと本当に好きよ。尊敬もしてるわ」

「ほっ」

「それに美咲はたくましくて強いわ!」

「うん、まあ、そうか。ん?いいのかそれで…?」

「セリアが一番美咲のことをわかっているかもな」

「はっ!でも、セリアをこの乱交未遂に巻き込んじゃだめだからね!」

「あ、言っちゃいけないって言った人が乱交って言った」

「うるさい!変な言葉が頭に残ってただけなの!」


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