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フィナーレ・コン・バリアツィオーニ 変奏を伴うフィナーレ 2/2

 美咲はふと気づいた。今、この手には司令塔があるではないか!

「サスキア!」美咲がサスキアを呼び止める。「ヴァースは星系内では超光速通信網であって、星系間は連絡船が物理的にジャンプしてメッセージの伝達を行うのよね?普通の通信同様に」

 サスキアは震える手でセリアにしがみつきながらうなずく。「簡単に言えばそうです」

「あなたは、ネクサス・ウンブラの幹部からの命令をヴァースの司令塔として送信していたのよね?あなたの命令が、あなたのテレパスのシグネチャーが、ヴァースの最高命令になるのよね?それを受け取った連絡船が、各星系に伝えていくのよね?」

 サスキアはもう一度うなずく。シグネチャーがあれば、サスキアと言う最高司令を出す送信機からの送信だとわかる。そしてその通信内容は偽造されえない。つまり、絶対に間違いなくネクサス・ウンブラが従わねばならないもの。

「良いこと考えた!」美咲は微笑む。「ヴァースの最高命令をサスキアから出してもらえないかしら?ヴァースの情報をつなぎアップデートするために、定期的に連絡船が集合するのでしょ?3か月後の集合地点を指定しましょう。ゼータ・サルガタナス星系なんてどうかしら。そうすれば3か月後に私たちがヴァースを乗っ取れる!テレパスを救う道筋ができる!」

 サスキアはセリアを見つめる。セリアは力強い笑みを返す。いつもはネクサス・ウンブラに脅されながら出すシグネチャー付きの命令を、初めて彼女は自分の意思で出すことを選択した。

サスキアは目を閉じ、何度か深呼吸をして精神を集中させる。ネクサス・ウンブラの司令塔のテレパスである彼女のシグネチャーをまとった意識が、ヴァースのネットワークを伝わっていく。その命令をセリアもまぢかで受け取り、口に出す。「緊急指令。高速密輸船で末端の星系へ薬物を運んでまずは現状維持せよ。次のヴァースの会合は、ゼータ・サルガタナス星系に3か月後。間に合うように各星系からの連絡船を派遣せよ」

 命令が発せられたすぐのち、ネクサス・ウンブラ幹部の乗るであろう高級ヨットがおんぼろ司令船に接舷する動きを見せる。

「あいつらはサスキアが偽の命令を出したことに気づいたの?テレパスを乗せていないはずなのにどうやって?命令を出す側には、そういうチェック機構があるに決まっているか…サスキアがネクサス・ウンブラの意図と異なる最高命令を出したときに彼女に『お仕置き』することができるということね…」ヴァレリーが独り言のように言う。「それでこれまでサスキアが勝手な命令を出せなかったことが理解できるわ」

「いいポイントだわ、ヴァル!いずれしっかり調べましょう」

「いずれにせよ、彼らにとってはいろんな意味で手遅れ」マーカスの声は冷たい。

 マーカスがおんぼろ司令船においてきた爆薬が音もなくさく裂する。おんぼろ司令船を引き裂くとともに、間近にいた武装ヨットも巻き添えになる。一行には歓喜の感情は湧き起らない。しかし、おんぼろ司令船のネクサス・ウンブラたちの恐怖と叫びの感情は、セリアとサスキアを襲い、彼女らはしばしそれに耐える。

「侯爵艦隊の核攻撃が拡大し、本命の薬物工場群に進軍中。ネクサス・ウンブラも距離を取りつつレーザーとミサイルで引き続き応戦中。巻き添えはごめんだな」エリックの警告が響く。「俺たちもジャンプ・ポイントへ急ごう」

 美咲は操縦桿を握りしめる。「みんな、しっかりつかまって。ヴァレリー、お客さんたちを着席させて」

「イスファハン星系への向かうべきよ」セリアが叫ぶ。「サスによれば、マイケルが乗せられている高速密輸船の向かう星系らしいわ。彼を助けたい」

 美咲はうなずく。「エリック、イスファハンへのジャンプ・ポイントまで、道案内お願い!」

 エンジンが唸りを上げ、スワンはリングを離れ、混沌から急速に距離を取る。引き続き核の閃光が彼らの後ろで星系を照らし出す。


 ジャンプ・ポイントまでのオートパイロットを設定し終わって、美咲は振り返る。

「まずは安心して。追手がいたとしても私たちには追い付けない。ジャンプ・ポイントについたらそのままイスファハンへジャンプする。お疲れさま」

 美咲は続ける。

「まだまだこれからだけど、私たちは巨悪を排し、中悪を掌握する手立てを得た。全部を一度には変えられない。でも今日、私たちは違いを作り出した。誇っていいと思うわ」

「そして次は?」マーカスが問う。

「3ヶ月後、ヴァースのネットワークを完全に乗っ取ることになるわ。組織を維持するための札束をちらつかせてね」ヴァレリーは冷静に言う。「資金が必要。連邦情報局からの提供、ELCの売り上げ...」

「そして多少の脅し」エリックが微笑む。「侯爵と宇宙海軍は私たちが何を知っているか気にするだろう。楽しくなりそうだな」

 セリアはサスキアの手を握りしめ、彼女の恐怖が少しずつ和らいでいくのを感じる。「マイケルも救い出すのよね?」

「もちろん。まずはそれが先決!」美咲は確信を持って言う。「一人ずつ、一歩ずつ。弱者の側に立つ。それが私たちの選んだ道」

 サスキアはセリアに縋りつくようにへたり込む。「怖かったぁ…」


 ジャンプまではまだ間がある。それまではしばしの休憩だ。ともかく、主旋律に対する彼らの対位旋律は、いつか必ず新しい調和を生み出すだろう。小さな勝利かもしれないが、それは確かな始まりだった。



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