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ディッソナンツァ・オッブリガータ 必然的な不協和音 1/2

 オルディナ星系の中心都市マルオルディナ。侯爵領の心臓であるこの政商の街にスワンズが入る時、クライブは静かに言った。「これまでのスワンズの軌跡が繋がりすぎている。偶然では説明がつかない。誰かが道筋を敷いている」

 ヴァレリーは端末を閉じる。「侯爵が仕組んだんだね。美咲が見つけた禁制品の難破船も、私の退職のタイミングも」

 エリックが頷く。「俺がレムナントに流れ着いたことさえ、上客のパイロットへの指名が理由だった。きっとあの客も侯爵の回し者だったのだろう」

「エリックとあたしは、昔、敵国の裏工作を潰した。情報局からの報告を受ける立場の侯爵は、あれであたしたちを覚えたのかしら。好機と見れば駒にするつもりで」

 マーカスは口をへの字に曲げた。「美咲へのならず者のちょっかいも—全部、出航を急がせるための演出か。駒にされるのは好みではないな」

 それはスワンズの全員の総意だった。

「おそらく侯爵にとって想定外なのは、マーカスの存在と、クライブの存在ね。あなたたちの存在が、侯爵への反撃のキーになるかも」

 ブラック・スワンをマルオルディナの宇宙港に着床させ、ELCたちを下す。何もかも。スワンズたちはそれからの仕事に取り掛かる。


 クライブが投影したネットワーク図は、驚くほど端正だ。薬物ルート、人の移送線、軍の補給ノード、侯爵の交易網。そして中心に浮かぶネクサス・ウンブラの本拠地—侯爵の星系内の外惑星タラントを取り囲むリング。「彼らは効率化と侯爵の庇護のため、薬物工場をここに集約しているようだ。ネクサス・ウンブラの最高執行部がここオルディナ星系のタラントのリングにいる」

「侯爵の今後のシナリオはこうだろう。テレパスを虐げているネクサス・ウンブラを憎んだスワンズに、ネクサス・ウンブラの本拠地と薬物工場を示す。おそらく、スワンズにネクサス・ウンブラを潰させようというのだろう」

 エリックが指を鳴らす。「なるほど、侯爵にとってはもうネクサス・ウンブラは用なしということか。それで厄介払いする。薬物の供給もたたれる」

「薬物の供給が絶たれた星系は?」ヴァレリーが問う。

「これまで薬物汚染されていた社会で、一気に社会不安が最終段階まで加速し、社会秩序は崩壊へ向かう」クライブは淡々と続ける。「不安定化する星系は、おおむね侯爵が敵対する星系だ。侯爵は不安定化する星系を安定化するために進駐して、このセクターの実権を完全に自分のところに集約するつもりだろう」

「私たちにネクサス・ウンブラをつぶさせようというのね?」

「おそらくな。ナディアと俺はこうした非正規戦闘を行ったことがある。金で動くと思うか、それともセリアの安全のために動くと思うか」

「でも武器も何もないわ。どうやってつぶさせるというのかしら」

「さあ、俺たちがここまでたどり着いたことを受けて、向こうが動くだろう」


 その予感は、翌夜の招待状として具現化した。侯爵邸の晩餐会。「友誼と交易の話を」と。ヴァレリーと美咲は表向きの客、エリックとマーカスは護衛として侯爵邸に向かう。

「だめだわ。侯爵邸を中心として強力な妨害電波が発せられている。高級貴族の晩餐会にはよくあることだけど。彼のノイズもこれほどと言うところかしら。ブラック・スワンとも連絡は取れない」美咲はうめく。

 白い大理石のホール。音楽、香り、笑い。侯爵は柔和に連邦の腐敗を語り、「民を守る秩序」を称えた。彼の言葉は滑らかで、人々の不満に寄り添うが、結論は彼の掌の上に置かれる。

 会の終盤、侯爵は一本のケースを持って別室へ美咲を誘った。エリックが距離を保ちながら付く。ケースの中には細い円柱がいくつも並んでいる。冷たい金属の光。美咲は情報局の研修で見たことがあった…戦術純粋核融合弾ゴッチア・ダウロラの起動キーだ。

「ナディア、貴女の船は機動力があり、小さな嵐を起こせる」侯爵は言った。「気づいているだろう。ネクサス・ウンブラの主拠点はこの星系のタラントのリングにある。彼らは許されざることをした。秩序のためには、切る時だ。君と彼—かつて敵の工作を正しく止めた二人—が締めるのが相応しい。そのための正義の矛を授けたい」

 美咲は無表情で彼を見た。「純粋水爆でネクサス・ウンブラを吹き飛ばせと言うのね」

 侯爵は目を細めた。「ネクサス・ウンブラのせん滅について、お互いの望むところであろう。さすれば、君たちの大切な人についても、これ以上危機は及ぶまい」

 どうだか!代わりに侯爵の手が伸びないとも限らない。

 エリックが一歩踏み出す。「侯爵、あなたのおひざ元のコンステラツィオーネだ。あなたが責任をもってせん滅しないのはなぜか」

 侯爵は肩をすくめた。「私が艦隊を動かすとしたら、ネクサス・ウンブラの存在を公式に認めたことになる。それは私の本意ではない。

 今、連邦は腐敗している。改革には衝撃がいる。君たちが危険なコンステラツィオーネの一つであるネクサス・ウンブラを壊滅すれば、私のセクターにおいて星系をこれ以上不安定化させるものはいなくなる。その後、私は不安定化した星系へ新しい秩序を示す。核は象徴だ。小さな終焉は、大きな始まりになる。ゴッチア・ダウロラが内戦を終えたように、この核はこのかりそめの平和の時代を終わらせる。そのあとの平定、それが私の役割だ。このセクターは連邦内で最も秩序があり強力なセクターとなり、連邦の範となろう」

 ネクサス・ウンブラを暗に庇護してきたのが侯爵であろうに!というか、ネクサス・ウンブラ自体の黒幕もおそらく侯爵であろうに。でもそれを認めるわけはない。

 しかし美咲は引っかかりつつもうなずかざるを得ない。変革には犠牲が伴う。そうであれば、いくつかのことには目をつぶって、ここは汚れ役に仕事をさせつつ、無謬の存在が後を引き継ぐということに一理ないではない。そういう風に情報局では生きてきた。しかし、美咲はマーカスの言葉を思い出す。そうだ。大義のためなどと言った薄っぺらいものではなく、私が真に価値を感じる弱者の側に私は立ちたい。

 美咲の考えをよそに、侯爵は続ける。「ネクサス・ウンブラとそれが引き起こす薬物汚染を一気に収束させうるのだ。おまけに君たちの大切な人の安全も確保される。ありがたい話ではないのか?」

 美咲はじっと彼を見た。「ネクサス・ウンブラが瓦解すれば、その資金源が絶たれれば、各地のネクサス・ウンブラは自己保全に走る。彼らが使っていた罪のない人たちは処分される。あなたの行動は、結局は弱者を犠牲にする」

「犠牲は常にあるものだ。秩序の代償として」侯爵の声は冷たく響く。「私の提案が気に入らなければ、私自身が対処せねばなるまい。星系内の不法事業を見逃した責任を取る形でね。少々気にいらない形にはなるがね。いずれにせよ、ネクサス・ウンブラが壊滅する以上、ネクサス・ウンブラのメンバーもその関係者にも犠牲は避けられない」

 美咲は静かに息を吸い、吐いた。「あなたは固執している。ネクサス・ウンブラへの核攻撃は、あなたが私たちの手を使おうと、自らの手を使おうと、必ず実行するつもりということだな」

 侯爵の目が微かに輝く。「賢明な観察だ。それは止められない。だが、君たちがこれからの展開に関わるかどうかは選べるということだ」

「つまり秩序の再編だ」侯爵は言った。「うまく協力してくれるというなら、ネクサス・ウンブラを葬った英雄と言う栄誉ある扱いも手配できるだろう。私の秩序が認められれば、少なくとも一部のテレパスを救う余地もある。そのためには、君たちの協力が欲しい」

 美咲は目を細める。「あなたの始まりは、誰からも大切にされない弱者の犠牲を踏み台にしている。そこには栄誉はないわ」

 侯爵の視線が冷たくなる。「なら、別の形で手を借りよう」彼の指がわずかに動く。ヴァレリーとマーカスが部屋に呼び込まれたことに美咲は気づく。

 侯爵が指を鳴らすと、ホールの全面のスクリーンにセリアの映像が映る。侯爵邸の一室にいるようだ。縛られもがくセリア。


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