スケルツォ・コン・インガンノ 欺きを伴った戯れ 1/2
カルディナル男爵の暗殺のニュースは、ブラック・スワンのクルーに警戒心をもたらした。
「ネクサス・ウンブラの内部粛清だろうな」エリックはニュース映像を見ながら言った。「セリアを逃がしたか、密輸ネットワークに穴を開けた責任を取らされたんだろう」
「単なる地方のボスではなかったということか」マーカスが腕を組んだ。
美咲は冷静に分析した。「彼らの組織はセクター全体に広がっているわ。これで安全になったわけじゃない」
ヴァレリーはセリアの肩を抱いた。「でも少なくとも、直接の脅威は減ったわね」
セリアは黙ってうなずいたが、彼女の目には複雑な感情が浮かんでいた。
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三週間後、彼らはドミニオン星系のスターポートで食事をしていた。船の補給を終え、次の目的地への出発を控えていた。セリアの腕が完治したこともあって、スワンズの雰囲気は明るい。
「おい、お前らじゃないか!」
大きな声にクルー全員が一瞬で警戒態勢に入ったが、一同が振り向くと、レストランの入口にはELCのメンバーたちが立っていた。バンドのフロントマンにしてボーカルのルークが満面の笑みで近づいてきた。
「まさかまた会えるとは思わなかったぜ!」
セリアが大好きなELCのボーカルが登場することの驚きと緊張で凍り付くのと対照的に、エリックは緊張を解いた。「偶然だな。ツアーの途中か?」
「ああ、アルセストでのあの騒動以来、引っ張りだこなんだ」ルークは笑った。「正直あれは迷惑だったが、結果的に俺たちを想像以上に有名にしてくれた。あんたたちは恩人みたいなもんだな。」
バンドメンバーたちがテーブルに合流し、あっという間に賑やかになった。目立つ集団になってしまったことで、美咲はさりげなく警戒の目線をあたりに走らせるが、ELCのファンが遠巻きに見つめているものの怪しい人影はない。それより、美咲自身もELCとの再会に心躍っていた。
セリアは最初の驚きを通り越して、目を輝かせて彼らの話を聞いていた。エンパスである彼女が、無意識のうちに全員の感情を高揚させていた。
「1年間で12星系を回るセクターツアーが決まったんだ」サックス奏者のアーネストが言った。「だが輸送が問題でな。チャーター船を探しているところだ」
マーカスがビールを飲みながら言った。「俺たちの船は小さいぞ?」
ルークは我が意を得たように目を輝かせた。「お前らの船を借りるってのはどうだ?ブラック・スワン、だろ?」
エリックとヴァレリーは顔を見合わせた。
「それは...」エリックが言いかけたとき、ヴァレリーが口を挟んだ。
「悪くないアイデアだと思うわ。正規のチャーター契約を結べば」彼女は計算機を取り出した。「適正な価格で合意できれば、お互いの利益にはなるわね。グッズの販売については、歩合でいただくことにしたいところだけど」
抜け目ないヴァレリーの様子に、美咲は顔を伏せて笑いをこらえる。
セリアは興奮した様子で「お願い!」と言った。彼女の感情が周囲に波及し、気がつけば全員が興奮した状態で契約条件を詰めていた。
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一週間後、ブラック・スワンはELCのロゴと鮮やかな青と金のラインでペイントされていた。最初のうちこそ、繁華街を走る虚飾に満ちた宣伝を貼りつけたラッピング・カーのように思えて顔をしかめた美咲だったが、ペイントがしっかり乾くころには早くも愛着すらわき始めていた。
船内には演奏機材、販売用グッズ、メンバーの私物が効率よく積み込まれていく。
「こんなに効率的なツアーは初めてだ」ELCのマネジャー、トムは感心した様子で言った。「君たち、ただの貿易船乗りじゃないな?」
ヴァレリーは微笑んだ。「それぞれ専門があるのよ」
トムは感嘆の声を上げた。「ヴァレリーの商才、マーカスの医療的配慮、美咲の交渉力、エリックの統率力...プロフェッショナルだ」
「船は狭いけどな」マーカスがまた繰り返す。彼にとって、船室が本当に手狭なのだろうと美咲は思った。
「それだって不思議なものさ。連邦情報局の払い下げ船にはこれまでにも乗ったことがあるが、スワンはなんかちょっと違う気がするな。外観は同じなのに、医務室はあるわコモンズは大きいわ、なんかこう工夫されている感じ。加速だってきびきびしている」
「パイロットの腕がいいってことよ。武装だっておろしているしね」あまりブラック・スワンに関心を持ってもらいたくない美咲は、ちょっと関係ない理由を並べてみる。
「俺たちとしては、また男爵事件のようなことに巻き込まれないなら、ありがたいだけだけどな」
美咲はぎこちない笑顔で応じたが、ふと、バンドの新しいメンバー、クライブという男性が彼女を観察しているのに気づいた。彼はアルセスト騒動の後にELCに加わったギタリストだった。
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ツアーが始まった。
各星系各地でのELCの公演は満員御礼で、セリアの存在が舞台効果と共に観客の感情を増幅させ、前代未聞の熱狂を生み出していた。彼女自身も夢のような日々を過ごしていた。セリアに言わせると、誰でも多かれ少なかれエンパスであるし、特に若い人の中には潜在的なエンパスがいるものらしい。大きなホールに集まったそうした隠れエンパスの相乗効果で、そもそも舞台というものは盛り上がるものらしい。それをセリアが少しだけ手助けすることで、より効率的に盛り上がりを最高レベルにまで高められるということだ。
「最高の体験だわ」セリアはある晩、ヴァレリーと美咲に言った。「初めて自分の能力が...誰かを幸せにするために役立っていると感じる」
ヴァレリーは娘を抱きしめた。「あなたの能力は決して罪ではないわ。連邦の偏見が間違っているのよ」
セリアは、ルークだけでなくELCのメンバーともハグを交わし、過去のやり残しを十二分に解消することができたのだった。




