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迫害されるテレパスのつくる心のネットワーク「ヴァース」は星間に広がる人類社会の希望となるか?  作者: 愛川蒼依
星間マフィアによって隠されていたヴァースに夜明けが訪れる ー 幕前
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プリマ・デル・シパーリオ 幕が開く前 1/2

 美咲は十二年の連邦情報局勤務を終える日、ハンガーデッキで担当者の到着を待っていた。もうここを訪れることはないのだと改めて思うと、今まで背景にすぎなかったものが目に留まる。人類連邦の版図を大雑把に記した宙域図もその一つだ。こんなものここにあったっけ?

 地球生まれの人類が宇宙に進出し、人類の生まれ故郷がどこだったのか忘れはじめ、それぞれがそれぞれの生まれた星を故郷だと信じているはるかな未来。人類の版図は大きく広がり、銀河系の一区画を多数の国家が緩やかにまとまる人類連邦が占めるようになってきた。人類連邦は十一の宙域『セクター』から成り、それぞれが複数の星域『サブセクター』で構成される。サブセクターは、たいてい一つの主星たる恒星の周りをいくつかの惑星が回る星系が、それこそ数十集まってできている。

 星々がジャンプ・ポイントで絡まるように線で結ばれている宙域図に、美咲は連邦のキャピタルを見つける。美咲の指がランダムウォークするように見せかけつつ、そのうち訪ねたことのある星系を意識をたどり、潜入捜査をしていた星系や、セクハラ貴族のいた星系などを避け、いくつもの星系を通りすぎる。

 大航海時代、接触の時代、大断絶時代、戦乱の時代、混乱の時代を経て、人々は大変緩やかな人類連邦のもとでの生活に慣れていた。主として星系を単位とした国家が成立し、それらの国家が連邦の形で結びついている。それぞれの国家の形態は様々だが、たとえ民主制度が定着していても、人類連邦への各国家の代表である領主が存在することが普通だった。例外はあれど、各国家は元首、国会、領主のバランスによって成り立っている。元首とそれが率いる内閣が行政を、国会が立法を、領主が法に基づき政治にかんがみ長期的な視点での司法をつかさどる。領主は家系制で長期にわたってその国家の利害に責任を持ち、国家の政治的・経済的・軍事的・文化的な影響力を背景とした爵位を与えられている。民主制度が破綻した場合や、選挙の都合等での政治的空白があった場合には、領主が実権を握る。つまり、その度合いは様々だとしても、立憲君主制が広がっていると言える。

美咲は蜘蛛の巣を維持すべく練り歩く蜘蛛の気持ちになる。そういえば、あたしもこの連邦を維持するために働く一匹の蜘蛛だったかと思いいたる。連邦の蜘蛛たる実力組織が占有している少数の星系にはジャンプ・ポイントの線が引かれているものの、一般人はそこには進入できない。美咲の指が、そうした連邦情報局占有星系の一つであるここハートフォード星系にたどり着いたとき、ようやく声がかかる。

「お待たせしたね、本條美咲大尉」

「サンダース部長。担当者って、あなた?なんで部長が直々に払い下げ船の世話までするの?」

彼女が退職するにあたって情報局の余剰船の払い下げを要請し、認められたのだった。

敬礼を終えると、部長はすぐさま姿勢を崩す。それが情報局のいいところでもあるし、実力本位の厳しいところでもある。

「美咲ちゃんにも最後に会っておきたくてね…さみしくなるなぁ」

 彼にはだいぶんお世話になった。それにしても最後まで子ども扱いとは、やや気が滅入る。とはいえ、これも懐かしむ日がいつか来るのだろうか。


「君のこれからの人生にぴったり合う船だろ」

第327調査部のサンダース部長から意味深な言葉と共に、フリーダム・ベンチャーという奇妙な名を持つ艦へ案内された。目の前にあるのは、確かに形こそ質実剛健な楔形、連邦情報局の代わり映えしない標準連絡艦。武装はなし。それでも人類連邦の実力組織の一端を担ってきた艦船だ。

 この時代、宇宙の実力組織は大きく宇宙海軍、陸軍、そして連邦情報局に分かれていた。宇宙海軍はジャンプを可能とするジャンプ・ドライブを装備した艦船とそれを操る軍人たちによって形成され、最も大規模なものは連邦直属の連邦宇宙海軍。星系を統べる国家が強力な場合には、あるいはそうでなくとも権威付けなどのため、国家自体が星系海軍を持つ場合も多い。星系内で行動するジャンプ・ドライブを装備しない戦闘用艦船から惑星上の支配までを管轄するのが陸軍だ。陸軍は星系あるいは惑星ごとに構成され、それぞれの国家の管轄下にある。連邦の意図のもとに惑星上の支配等を行う場合については、連邦海軍の中に組織される連邦直属の海兵隊がそれにあたる。これら剛の組織とは全く別の組織として、人類の版図についてこの連邦制を維持させるための柔の組織が連邦情報局というわけだ。情報局は、反乱のたねを未然に防ぎ、星系を超えた大きさの組織犯罪に対抗し、各星系の警察組織が対抗しえない上層部や連邦貴族の腐敗に目を光らせる。実力組織としては圧倒的に小ぶりなものの、ジャンプ・ドライブを装備する大小さまざまな情報局艦船は、連邦内のどの港でも見つけられる…念入りに偽装しているものでなければ。

 美咲に払い下げられようとするのは、情報局での役割を終えた標準的な小型連絡艦…のはずだった。艦の内装は古めかしいが、整備状態は良好。外見に大きな傷は見当たらない。しかしよくよく見ると、軍規格の高感度指向性センサー、偵察用ステルススラスター、充実した長期間任務用のゆとりある艦橋。コモンズの端には簡易手術台。これ、特殊任務用じゃない?なんだか懐かしい。

 とはいえ、つまりは標準仕様から微妙に逸脱した船。美咲は眉をひそめた。

美咲は手元の仕様書に目をおとす。何故か高耐圧の貨物ベッドが燃料タンクの内側に備え付けてあることに気づく。こんな変な機体を払い下げていいんだっけ?まあこんな機体、むしろ普通の中古市場に流せないだろうから、体よく元局員に払い下げるということかしら…?

船の基本性能自体も、情報局に入りしたての頃に彼女が操縦した船よりもちょっとだけマシだ。それなりにお金をかけて作られた機体だろうけど、人々の興味から外れたとがった機体になってしまって、むしろ市場価値は低いということか。美咲としては…お得な機体と言うことか。乗り慣れた機体に近いことは近いわけだから。

「随分と気前がいいのね、部長?」

 童顔に似合わない目線で美咲が探るようににらみつけると、サンダース部長は引きつったような笑みを浮かべた。

「ま、いっか!」払い下げ手続きの署名しながら、美咲は微笑んだ。


 これから美咲は情報局の灰色の制服を脱ぎ捨てる。彼女の情報局での専門は主として探索だった。人や物、時には組織の秘密を見つけ出すこと。しがらみも多く窮屈に感じ始めた情報局を辞め、フリーランスとしての新しい旅立ちを迎える。その旅立ちとしては悪くない。

「美咲ちゃん、無理だけはするなよ」サンダース部長は心底心配そうに、まるで彼女に無理を押し付けるつもりであるかのように言った。


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