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偵察

「これ、敵は本当にいるのか…?」

「……」

ティエルシがアベルに質問を投げかけた。やはりアベルはいつものように無口だった。闇だけが満ちるこの山道で、二人は息を切らしながらどこかへ進んでいた。

彼らの肩には、それぞれ銃器と重い軍装が乗せられていた。中には様々な偵察道具が詰まっていた。双眼鏡、地図、羅針盤、紙、鉛筆など、数多くの道具を何度も確認した彼らは、足音に注意しながら前へと進む。

「アベル、見つかったら問答無用で逃げるんだぞ。交戦は最大限避けよう。」

「…」

いつもそうだったように、ティエルシだけが独り言のようにアベルに静かにささやく。アベルは適度に頷いたり首を振ったりすることで、全ての意思疎通を済ませていた。

「本当に獣一匹も見えないな。やれやれ、いいや。兵長さんが言ったんだから、何もないってことはないだろう。」

低い声でささやきながら、引き続き秘密裏に前進する。アドラーが「小隊の北に滝のある敵の基地があるらしい。」と言った。この一言だけで、彼らはフェルカーの命令に従い任務を遂行している最中だった。

「ザーーーーッ…」

「…!気をつけろ!」

いつ頃敵の足跡でも見えるだろうかと思っていた頃、滝の音が静かに崖の向こうから聞こえてきた。その音が聞こえるや否や、ティエルシとアベルはうつ伏せになり、警戒態勢を取った。

「地図を開け。」

ティエルシは手で近くに来るようにジェスチャーを取り、非常に小さな声で言う。するとアベルは周囲を確認し、静かに平たいリュックサックをそっと地面に置き、紐を解く。音一つ一つに注意しながら全ての紐を解いた後、地図を広げた。

「今いるのは…ここ…か。」

アベルが地図と鉛筆一本を手渡し、ティエルシが静かにカサカサと鉛筆で位置をマークする。地図は小さな周辺地域だけが表記されており、水脈は別に表示されていなかった。次第に前線が押し上げられているため、精度も低い方だった。

「マーク完了…じゃあ行ってみよう。」

静かにうつ伏せになって移動するティエルシとアベル。彼らがゆっくりと前進すると見えたのは、崖っぷちだった。そして右側を双眼鏡で拡大してみると、木々の間に水脈が月明かりを反射しているのがはっきりと目に入った。

「この下か…」

危険を冒して、ティエルシが崖の下を危うい姿勢で覗き込む。アベルが後ろで、彼がもし落ちるのではないかと注意していた。

崖は険しく険阻で、下を見るだけでも目が眩むほどの高さだった。もし高所恐怖症があったなら、今頃震えていたであろう高度だった。

「おい。そんなに心配しなくてもいいぞ。俺はこんなことをしていて落ちるようなバカじゃないから。」

「上等兵殿が落ちたら…俺一人で報告しなきゃいけませんから。」

「自分の仕事が増えるのが心配だったのか!」

アベルが久しぶりに声を出して口にした言葉は、他でもない仕事の心配だった。もちろん口ではこう言っても、二人はお互いにかけがえのない、固い絆で結ばれた関係だった。

「フサス…フサス…」

「!!!」

茂みの方から誰かの物音が聞こえてきた。ティエルシとアベルはすぐに崖から目を離し、そちらを見る。まだ何もいなかったが、確かに音が聞こえてきた。

「フサス…フサスス…」

直ちに肩にかけていた銃を手に取り、音が聞こえてくる方に向けて射撃姿勢を取った。その茂みの向こうは、月明かりも差し込まない木々に覆い茂った暗黒の空間だった。

冷や汗が額を伝って銃床に落ちていた。心臓はますます激しく鼓動し、破裂しそうなほど身体を圧迫した。

「見えないじゃないか…!」

闇に文句を言いながら、スコープに直接的に動く茂みが映るその瞬間。

「ピク…ピク!」

「え?」

彼らの瞳に映ったその暗闇の中の物体の正体は、他でもない白いホッキョクギツネだった。ティエルシだけでなくアベルさえも戸惑い、すぐに安堵して銃身を下ろす。

「はあ…こいつだったのか…無駄に緊張したな…」

気の抜けたため息と共に、体がすーっと緩む。ホッキョクギツネの白い毛は綿毛のようにふかふかに見え、まだ完全に成長していないようで小さな体躯をしていた。

「おいで。」

「キュン…」

アベルが先に手を差し伸べ、静かにホッキョクギツネに手招きする。するとそのキツネは警戒心なく近づいてきて、アベルの手に頭をこすりつけた。

「お…おい…ずるいぞ。俺にも来てみろ!」

ティエルシもその様子を見て手招きをしたが、その動物は差別でもするかのようにアベルにだけ可愛らしく振る舞っていた。

「…うわあああ!! ああ!これじゃだめだ!おい!アベル!俺たち偵察中だぞ!」

「あ。」

ティエルシが静かに叫ぶ。敵がいるかもしれないという事実に、再び声を低くして静かに叫んだのだった。するとアベルも思い出したように再び手を離し、警戒態勢を取った。

白色のキツネは、手を引っ込められた後もアベルにちょこちょことついていき、一緒に崖の向こうの風景を眺めていた。

「…可愛い。」

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