守りの声
「起床!! 点呼の時間だ!」
今日も変わらずフェルカーの声が兵舎の中に響き渡る。すると兵士たちは目をこすりながら起き上がり、洗面をする。洗面をして服を着替え、それが常に繰り返された。
......
「33番、フォーゲル・フリューゲル!」
「はいっ!」
「34番、リーベ・ロートゥス!」
「はいっ!」
リーベまで呼ばれ、これで点呼が無事に終わるかと思われた矢先、フェルカーが厳粛な顔で小隊員たちに何かを公知する。
「昨日、我々が捕獲した2名の捕虜が真夜中に脱走した。」
捕虜が脱走したという知らせは、すぐに小隊の安全にも大きな危険要素となる。その公知を聞いた兵士たちは、誰もが戸惑い、お互いに静かにささやき合う。
「静粛に!!」
静粛という言葉に、すぐに全ての私語が止まる。彼が叫んだ声の効果は、まるで獲物をさらう鷹のように強烈だった。
「ただし、捕虜は脱走したが、結局アドラー兵長が排除した。」
「ふう…」
全ての兵士が揃って安堵のため息をつく。これはフォーゲルとリーベも同様だった。しかし、「排除」という表現がリーベにはどういうわけか悲しく響いた。
「喜ぶべきかな…そうでないべきかな…? 危険がなくなったのは良かったけど、やはり人が死ぬのは…」
「とりあえず安心しよう。どうせウンステア(敵国)だ。常に他の国を侵略し、踏みにじるあの国の民族に過ぎない。」
リーベはウンステアであっても同じ人間として死を悼んだが、フォーゲルは決して彼らを許さなかった。フォーゲルの目は悲壮で、荒々しい瞳だった。
「もう一つ公知することがある。その捕虜は歩哨を立っていた兵士を気絶させた。そのため、その兵士は重傷を負い、現在医務室で病んでいる。お前たちも決して気を緩めるな。戦闘が起こらなくても常に警戒し、怠けるな。では、今日の公知はここまで。解散!」
兵士たちが解散し、フォーゲルとリーベも訓練場へ歩いていく。歩いている間中、リーベは顔色が優れなかった。
「来たか。ふむ…顔色が悪いな。」
「あ、その知らせを聞いたからです。おい、ぼーっとするな。」
フォーゲルは目を伏せているリーベの肩を掴み、優しく揺さぶる。するとジンクスはわずかに眉をひそめ、言葉を続ける。
「捕虜二人が脱走した件か?まあ、うちの部隊が危険になるところだったが。」
「あ、そうじゃなくて、こいつはその捕虜が死んだことを悲しんでこうなんです。」
「あ…そうか…」
フォーゲルの答えにジンクスは少し驚いたように目をわずかに大きく開けたが、すぐに苦々しそうに背を向け、話題を変える。
「来たんだから、軍紀教育から始めよう。さあ、聞け。」
しばらくの間、教育が続く。最後に訓練も終え、食事の時間が近づいてくる。リーベは先ほどよりは気分が晴れたようで、熱心に訓練に取り組んだ。
「ようし、もう飯を食いに行こうぜ。」
「うん、わかった。」
テントに向かいながら、とりとめのない雑談を交わす。特に意味もなく、特別な何かもない日常的な会話だった。
「お前は感情が深すぎるんだよな…」
「それは褒め言葉なの?」
「お前の長所であり短所というか。」
いつの間にか話しているうちにテントに到着した。しかし、そこにはだらしない姿勢で座って喫煙している黒髪の兵士がいた。
フォーゲルとリーベは、彼を含む全ての兵士たちに包括的に挨拶をする。
「お疲れ様です。」
挨拶を終えて配給を受け取る。空いている席は長いテーブルの中央だけだった。そしてその席の隣には、喫煙中のその兵士がいた。
「…」
静かに様子を窺いながら食事をしようとするが、案の定、彼らの耳にその声が聞こえてくる。男にしては高く、傲慢さが滲み出る声だった。
「ガキども。飯は美味いか?」
「美味しくいただきます。」
皮肉めいた口調の問いに、フォーゲルは最大限の礼儀をもって答える。以前にもリーベを何度かからかってきたその兵士が気に入らなかったが、階級を考えると仕方なかった。
「は、飯が喉を通るんだな?俺を舐めてるのか?」
「舐めていません。」
「お前、俺の名前は知っているだろうな?」
「ドゥンケル・フェラート上等兵殿であります。」
点呼をすることで、二人の少年兵はすでに小隊員たちの名前をほとんど知っていた。ドゥンケルには特に遺恨があり、とっくに名前を覚えていた。
「それより…おい、女。一緒に飯を食って、俺たちと遊びに行かないか?」
「それは…」
リーベに再びちょっかいを出そうとするドゥンケル。彼の黒い瞳が荒々しくリーベを射抜いていた。
「リーベは俺と一緒にいます。」
答えられないリーベに代わり、フォーゲルが庇うように彼女を守る。リーベは感謝するように、その金髪の少年を見つめていた。
「俺はお前に聞いてないんだが?男のくせに口数が多いな。」
ドゥンケルは立ち上がり、食べ物を口の中でもぐもぐさせているフォーゲルを後にして、この状況が不快そうに食べもせずにじっと座っているリーベに近づく。
「坊主、目が綺麗だな。緑色で木の葉みたいだ。」
「ありがとうございます…」
リーベは感謝とは言えない挨拶をして、少し椅子を横に移動して座ろうとする。フォーゲルはこの状況で前に出られず、じっと怒りを抑えていた。
「なんで後ろに引く?俺が嫌いか?」
声を荒げると、ドゥンケルの手が徐々にリーベの胸元に近づく。それを見たフォーゲルは、虫でも見るような表情で手を伸ばし、リーベを護ろうとする。
「お止めください。上等兵殿。」
フォーゲルは頭のてっぺんまでこみ上げてきた怒りを鎮めるために、荒々しく息を吐く。もしここで怒りを表に出せば、間違いなく軍隊生活は非常に苦しくなるだろう。
「お前が何様のつもりで俺に止めろだの言うんだ?」
「俺はこいつの友達です。」
「友達」という呼称と共に、リーベに向けられた手を腕で遮る。その腕は15歳らしく細かったが、柱のように揺るがなかった。
「どけ…!」
しかしドゥンケルは、その柱を崩そうとする。リーベはただ恐れて、それを見守るしかなかった。
「やめろ!!」
「お前は誰だ…! ....」
やめろという号令にドゥンケルが苛立ちながら後ろを振り向く。だが、そこにはアドラーが立っていた。
「…す…すみません。兵長殿!このガキに言った言葉です。」
「いい。もう食い終わったなら出て行け。」
冷気が宿ったように飛んでくる眼差しにドゥンケルはすっかり怯えて弁解し、出て行く。アドラーの立場はこの小隊でそれほど威厳があった。
「大丈夫か?フォーゲル、リーベ。」
「だ…大丈夫です…ありがとうございます!」
フォーゲルとリーベが感謝の意を表し、しきりに頭を下げる。考えてみれば、いつの間にか呼び方も少年と少女からフォーゲルとリーベに変わっていた。
「調理兵に用があって来ただけだが…お前たちが困っているのが見えただけだ。感謝の挨拶はしなくてもいい。」
「いえ…本当にありがとうございます。」
リーベは相変わらず彼に尊敬の眼差しを送る。アドラーは、この眼差しがなぜか負担だった。
「軍隊生活はどうだ?」
「訓練も熱心にして、他の皆さんと仲良く過ごしています!リーベも同様です。」
「はいはい。一生懸命前進中です。」
「そうか。」
フォーゲルとリーベが上手くやっているように見え、アドラーは安堵してわずかに微笑む。彼の微笑みは美男らしく、非常に魅力的だった。
「兵長殿は、その…昨日捕虜を射殺したとのことですが、どうやってそいつらは脱走したんですか?」
フォーゲルが質問を投げかけると、アドラーの表情がわずかに歪む。しかしすぐに穏やかな表情に戻り、答える。
「縛っておいたら、自分たちが流した体液で縄が切れたらしい。それで脱走したのだろう。俺はその時、フェルカーと一緒にコーヒーを飲んでいる最中だったから、その音を聞いてわかった。」
「うわあ…その深夜までですか…? お疲れでしょうね…」
フォーゲルは、その深夜までコーヒーを飲みながら会話でもしていたであろう二人を思い浮かべ、その疲労を推し量る。二人は一日も休まず誠実に働く優秀な軍人たちだ。
「大したことじゃない。お前たちが大きくなって、俺のように深夜まで起きているようなことにならなければいいんだが。」
アドラーは苦々しそうに微笑みながら二人に挨拶をし、調理兵と会話をしに行く。彼の肩は、いつだって頼もしかった。




