脱走
暗く雪だけが降る静かな夜空、その夜空には数多くの星と天体が散りばめられていた。そして雪が星の光を遮るかのように、彼らは天幕に覆われていた。
「うう…!」
鼻は折れ、血は口元で固まっていた。そして口を含む全身は縄で縛られたまま、椅子と共に柱に打ち付けられていた。別の柱に縛られた捕虜はすでに諦めたように目をつむっているが、この捕虜はアドラーが出て行った時点から今までずっと、少しずつ縄を口で噛みちぎっていた。
天幕の前に立っている歩哨は、この真夜中に捕虜を監視し続けているうちに疲労で立って眠ってしまっていた。午前3時を過ぎているためか、周囲には縄を噛みちぎろうと足掻く捕虜の小さな呻き声だけが聞こえてきた。
「くそっ…う…ぐっ..!」
涙を流し、口元が血で切れても、彼は止まらない。自分の部隊、そして家族が恋しかった。部隊で指揮官が死んだ時点から、彼らに行く道はなかった。
あの時少しでも動いていれば、天才狙撃兵に狙撃されて脳が飛び散っていたに違いない。ただできることは降伏することだけだった。
「諦めない…待っててくれ…妻よ…そして愛する息子よ…」
自分の家族を見捨てることは、彼には不可能だった。今は捕虜の身だが、彼はかつて子供であり、大人であり、そして一家の主だった。
「パチッ…」
「…!!」
先ほど流した胃液と、絶えず流れ続ける口元の血によって縄が濡れていた。そして濡れた縄から、希望の音色が起こった。引き裂ける音と共に、ついに腕にあった縄がちぎれた。
「はぁ…はぁっ…」
腕の縄は力なく床に向かって、ガトリングに撃たれた木のように崩れ落ちる。そして彼はついに10時間の努力の末、縄を解き放った。隣にいたもう一人の捕虜は、その音で目を覚まし、彼を見て驚く。
「ぐっ.. ぐっ..!」
その捕虜が興奮して叫びそうになる。しかしすぐに静かにするようにと彼が手招きする。前にはまだ眠っている歩哨が残っており、彼を起こしてはいけなかった。
腕が自由になると、残りは簡単だった。そうして拘束具のようだった全身の全ての縄を一つ一つ解いていくと、ようやく椅子から立ち上がることができた。
「はぁ…はぁ…」
興奮した感情を鎮めようと努めながら、もう一人の捕虜の縄も音を立てずに近づいて解いてやる。彼らの目には希望の光が宿った。お腹は空いていたが、それは今の状況では重要ではなかった。
「俺が…前の歩哨の背後を取る。そしたらお前が銃を奪って、銃床で殴って気絶させ、脱出しよう…」
秘密の作戦計画を話し合う。彼らの声はネズミのように小さく静かだった。
「この小隊は円形になっていて、壁で塞がれた構造だろ?あの鉄条網を、この歩哨から奪ったナイフでノコギリのように切り開いて出るんだ…そうすれば俺たちも生きられる。」
「あ…わかった!」
作戦を全て立てた後、静かに天幕を上げる。すると見えたのは、前で立って居眠りをしている一人の兵士だった。肩には銃がかけられていた。
「ひ…と…つ…ふ…た…つ…み…っ…つ!!」
静かに数を全て数える。そうしてから、その捕虜が兵士の首を一瞬にして絞める。
「げ…げぇええっ….!!」
居眠りしていた兵士が瞬時に目を覚まし、息の根を絞められる感覚に目を見開く。しかし、すでに喉からは血の味がし、銃を奪われてしまう。
「バキッ!!」
その瞬間、もう一人に銃床で頭を殴られ、結局気絶してしまう。力なく倒れそうになるのを、素早く倒れる音を防ぐために捕虜二人がかりで体を支え、ひとまずざっと死体を引くように天幕の中に連れて行く。
「早く探すぞ…弾薬とナイフから…」
「こ…ここにある。」
弾薬とナイフがそれぞれ別のポケットから見つかる。それらを空にかざすと、月明かりが金属を照らしていた。それを見て、今度こそ必ず逃げ出すと、二人は拳に誓う。
「見つからないように…」
静かに兵士は天幕の中に放置したまま、銃とナイフ、そして弾薬を持って外に出る。雪は破れた紙切れのように空を飾っていた。
そっと部隊の後方へ進む。前方には兵士が必ずいるだろう。後方の中でも、彼らが覚えている限り不寝番がいなかった場所へと向かう。
「多分…あそこが…兵舎みたいだ…」
「気をつけろ。」
二人は小さく会話を交わし、雪を踏む音すら警戒しながら後方へ進む。起きている兵士もいるようで、かすかに会話の声がどこかから聞こえたが、体をテントで隠してやり過ごす。
そうしているうちに、いつの間にか壁の上に到着する。鉄条網がいっぱいだったが、隙間からようやく上り詰めた。
「ここで…やろう。」
「わかった。じゃあ…ナイフを渡してくれ…俺が切る。」
ナイフを彼がもう一人の捕虜に手渡す。そして彼は自分の分厚い服で鉄条網を包む。服で包んだにもかかわらず、針に刺されたようなちくちくとした感覚が手の全ての神経を刺激したが、必死に耐える。
「これさえ…やればいいんだ…」
鉄条網を服で掴んでピンと張る。依然として痛みは続いたが、今は生存の方が重要だった。
「くっ…」
「す…早くやるぞ。」
ナイフを持ち、彼がピンと張った鉄条網をノコギリのように一つ一つ切り進めていく。するとついに、抜け出せる通路が完璧に完成した。
「行くぞ!」
「うわ…あ!」
壁から飛び降り、素早く疾走する。この地獄のような小隊の記憶は、逃げ出しても結局忘れ去られることはないだろう。
「パン!!」
「あれ…?」
一緒に走り去っていた捕虜が、どこからか聞こえた銃声の響きと同時に倒れる。その捕虜は一発で頭を撃たれた。髪の毛が血で染まっていく。そして彼の青い目は見開かれたまま、雪の上で消えた火種のように光を失った。
「だめだ…だめだ…だめだ…!!!!」
「パン!!」
再び銃声が鳴り響く。そして絶叫していた声も、やがて止んだ。二人の捕虜は鷲に狩られた。
「ごめんよ…」
アドラーの赤い目からは、とめどなく涙が流れ落ちた。




