99話 ケイルスがはじめた物語。
99話 ケイルスがはじめた物語。
「全力のパワーで、一気に終わらせてもらう。死ぬかもしれないけど……その時は自己責任ってことで」
そう言ってから、ケイルスは、『本気の魔力を込めた無数の魔法』と『オーラで満たされた拳』を叩き込んできた。
センはあえて反撃しない。
ずっと、防御と観察……つまりは『見』に徹する。
ケイルスの全力……その全てを受け止めてボロボロになったセンは、
「今の不意打ちはなかなかだったぞ。おかげで歯が……ちょっと頭にきちゃったかな」
と、そう言うと、
ケイルスは、
「不意打ちなどしていない。ずっと、正面から攻撃し続けているだろうが」
「もちろん、そうだとも」
「なんなんだ、貴様は……本当に、気持ちが悪い」
そう言いながら、ケイルスはさらに、大量の魔法をセンに叩き込む。
ケイルス的に、『これだけされたら普通に死ぬ』と思うほどの攻撃を叩き込んだが、
しかし、センは、
「おら、どうした。追撃してこいよ。手ぇ止めんな。どんどん来い」
ボロボロのくせに、
しかし、不愉快な挑発をやめない。
死にかけのくせに、煽り性能に変動がない。
「おらおら、来いよ。どうした、どうした、ヘイヘイヘーイ。ショウヘイヘーイ」
無限にボロボロになっていって、なのに、無限に挑発を続けるセン。
ずっと、元気よくセンをボコボコにしていたケイルスだが、
流石に、気持ち悪くなってきたようで、
「き、貴様、イカれているのか……」
「俺がイカれているんじゃねぇ。俺がイカれて見える世界がイカれてんだ」
「ぐ……いつまでも、わけの分からないことばかり……も、もういい加減、分かっただろう。貴様と私の実力の差……これ以上は、やるだけ無駄だ。死にたくないなら、降参しろ」
そんなケイルスの言葉に対し、
センは、ニタァっと、『べったりした笑み』を浮かべて、
「おいおい、ケイルスさんよぉ……バカ言っちゃいけねぇ。……ここからだ。本当の闘いは」
「……は?」
「お前から売ってきたケンカだ。途中離脱はゆるさねぇ。とことん付き合ってもらうぞ。ちなみに、最低でも、あと80時間は闘うから、そのつもりで」
「はちじゅ……」
「言っておくが、80時間は、あくまでも準備体操に過ぎない。80時間程度で、サラっと準備体操を終わらせて、そこから、ようやく始まるんだ。俺とお前の、本格的な殺し合いは」
「ふ、ふざけるなぁあ!」
センの80時間準備運動宣言を冗談だと思っている様子のケイルス。
しかし、センの目はマジだった。
基本、ふざけたことしか口にしないセンだが……しかし、これ系の宣言だけはガチンコ。
センエースがマジであるとケイルスが気づくのは、ここから30分後。
どれだけダメージを負っても、永遠に戦い続けるセンに、
ケイルスは、
「も、もうやめだ!」
武装闘気を解除しながら、
「これ以上やったら、本当に殺してしまう。私は、別に、貴様を殺したいわけじゃない」
と、そんな眠たいコトを抜かしてけつかりやがるので、
センは、呆れ交じりに、
「アホぬかせ。これは、心を摘む闘い。どちらかが『まいりました』と敗北宣言をかまさない限り、永遠に終わらない地獄」
狂ったことを、堂々と、
「半端に離脱はできねぇと言ったはずだ。お前は俺との闘いを求めた。そのツケを払う方法は一つしか無い。俺に決闘を申し込んだあの瞬間から、その狂気が成立する日まで、進み続けるんだ。死んでも、死んだ後も。――これは、お前が始めた物語だろ」
狂気を魅せつけるセン。
ここまでくると、ケイルスの目に、恐怖のような何かが浮かび始める。
おびえ始めたケイルスに、センは、
「さあ、来るんだ、ケイルス。俺とお前の闘いは、まだ始まってすらいない。準備運動の途中で抜けることなど許されるはずがない」




