95話 1組は強すぎる。
95話 1組は強すぎる。
「俺、賢くて優しいイケメンとか、虫唾が走るほど大嫌いなんだよなぁ……どうしよう、殺そうかな……」
「……」
そこで、ケイルスは、本当に、ゴキブリを見るような目をセンに向けたまま、
クロッカに、
「く、クロッカ様……あんなのを飼うのは本当にやめた方がよろしいかと思います。これは、本気の忠言です。どうか、聞き届けていただけませんでしょうか。あんなのが側にいると、尊いクロッカ様が穢れてしまいます」
そんな進言を、
クロッカは一度、おかしそうに笑ってから、
「ケイルス、あなたの発言は正しい。確かにうちの犬は言動がおかしい」
そう言いつつも、楽しそうな声音で、続けて、
「けど、有能だから、そばには置いておく。ケイルス、あなたはカドヒトの撃退をあまり評価していないようだけれど、私は違う。カドヒトを撃退できるセンは番犬として非常に優秀。これからも、私の番犬として便利に使わせてもらう」
「番犬としての役目なら、この私、ケイルスでもこなせると思うのですが」
「ケイルス、私はあなたを信用している。けど、この学院の生徒である以上、あなたは、将来的に、パルカ兄さまの下につくことになる可能性が非常に高い。だから、信用はしているけれど、犬にはできない。これはあなたの人間性どうこうではなく、社会システムの話。分かってくれるわよね」
「わ、私としては……こうして目をかけていただけているクロッカ様についていきたいと考えているのですが」
「嬉しいけれど、お兄様がノーを出せば、それは不可能になる。私は、それなりに、ワガママを許してもらえているけれど、それは常に『超えてはいけないライン』というのをギリギリのところで守っているから。お兄様の管轄であるダソルビアの1組次席……実質主席であるあなたの所有権は、やはり、どうしても、お兄様のものになってしまう。それが、社会のシステムなの。感情でどうこうはできない」
「……」
ギリっと奥歯をかみしめるケイルス。
自分ではどうしようもない社会のシステムという不条理を前に、
苛立ちが募っていく。
これは、無力な自分に対する怒りなのだが、
しかし、それを、自分自身の感情だけで受け止める度量がない彼女は、
いったん、見下しているラスに向けて発散することにした。
ケイルスは、キっと、強い視線で、ラスを睨んで、
「……『貴様の担任』である、そこの『愚かな魔人』は、今度のクラス対抗イベントで、『3組が1組に勝てる』と思っているようだ。笑えるな。いくらハンデがあろうと、3組が1組に勝てるわけがないのに」
さきほど、センが言っていたように、来週、クラス対抗イベントが行われる。
今回のイベントは、1組、2組、3組の学生が、総当たりでクラス単位の集団模擬戦闘を行い、順位を決めるというもの。
もちろん、普通にやったら、1組が圧勝して終わりなので、
『下位の組』は『上位の組と戦う際』には、
『相応のハンデ』をもらうことになっている。
ただ、どれだけハンデがあろうと、3組が1組に勝つということは無理。
それだけの、決定的な差がある。
そのことは、ラスももちろんわかっている。
『自分がケイルスに特攻するだけ』なら、一撃かませる可能性もなくはないが、
クラス単位の闘いとなると、もうどうしようもない。
確実に、何もできず、制圧されるだろう。
だって、1組には、『タンタル・ロプティアス・クロッカ』がいるのだから。
ぶっちゃけた話、クロッカがその気になれば、3組とか1組とか関係なく、その場にいる者全員まとめて、秒殺される。
――そこで、ケイルスは、嫌な感じの笑みを浮かべて、
ラスに、
「ああ、いや、しかし、貴様らのクラスの担任は、あのカドヒトを撃退できる『非常にすごい先生』だ。それほど素晴らしい教師の教導を受けている3組ならば、あるいは、1組が相手でも造作もなく倒してしまえるのだろうか? ん?」




