94話 1組次席。
94話 1組次席。
徹底的に侮蔑されたことで、
ラスの視線に強い光が灯る。
相手は1組次席。
闘っても勝てない。
それは分かっている。
しかし、それでも、
「1組次席のケイルスさん……あなたに、決闘を申し込みます。正式に。理由は、もちろん、『いわれなき侮蔑を受けたから』です。僕が怖いなら、拒否していただいても結構。ただし、その場合は、先ほどの発言の取り消しと謝罪を求めます」
静かな怒りの中で、たんたんと言葉を紡いでいくラス。
そんなラスの静かな怒りに対し、
ケイルスは、鼻でわらい、
「弱い者いじめをする気はないし、謝罪の必要性も感じない」
『相手にしない』という最低の選択肢をとる。
もっとも侮蔑的な対応を取られたことで、
ラスは、
「逃げるのですか?」
と、追い打ちをかけていくが、
「1組次席である私が、3組の下等種から逃げるというのは、論理的にありえない。別に、喧伝してもらってもかまわないよ。『私が3組の雑魚から逃げた』と。しかし、恥をかくのはそっちの方だ。誰もが思うだろう。『1組次席のケイルスは、カスの相手をしているほどヒマじゃないのだろう』と。そういう『当たり前の、常識的思想』に到らないようなバカには、どう思われてもいい。どっちにしろ、私にダメージはない」
「……ぐっ」
とことん徹底的にバカにされたラス。
魔人相手なら、『決闘宣言と同時の速攻特攻』をかますこともできるが、
相手が、1組次席ケイルスになると、『了承をえないままに特攻』……ということはできない。
狼藉者として処分を下されることは、プライド的にも家柄的にも許容不可能。
決闘申請をあしらわれてしまった以上、
ラスにはもう何も出来ることがない。
ギリギリと、屈辱にまみれて歯噛みしていると、
そこで、それまで黙っていたセンが、
「俺のカワイイ生徒を、これだけバカにされてしまうと……さすがに、黙っているわけにはいかないな。はじめてですよ。私の生徒をここまでコケにしたおバカさんは」
と、ファントムに、しかし、そこそこガチのテンションで、そう言った。
センは、ケイルスに詰め寄って、
「俺のことはどれだけバカにしてもいいが、俺の生徒のことはバカにするな。なぜ、生徒をバカにされたくないか一言で言ってやろう。俺の生徒をバカにするということは、結局のところ、俺をバカにしているということになるからだ。つまり、俺は、『俺をバカにするな』と言っているってわけだな。あれ? 俺は、俺をバカにされてもいいのか、バカにされたくないのか、どっちなのかなぁ? ケイルス、わかる?」
そんなセンの渾身のファントムト―クを受けて、
ケイルスは、『マジな深みのシワ』を眉間に叩き込み、
「? ……な、何を言っている?」
本当に『何を言っているのか分からなくて怖い』という、ドン引きの顔をする。
「安心しろよ、ケイルス。俺が何を言っているのかなんて、俺を含め、誰にもわからない」
と、徹底的にファントムトークを通してから、
そこで、センは、ラスに視線を向けて、
「ラス。慌てなくても、来週の『クラス対抗イベント』で、ケイルスとやり合うことができる。こんな誰も見ていないところで、こっそりとブチのめすんじゃなく、他のやつらの耳目がある中で、正々堂々、徹底的に、凌辱の限りをつくした上で殺してやれ」
「あ、いや、あの……凌辱はしませんけど……殺しもしませんし……」
「え? しないの? なんだよ、つまんねぇなぁ」
と、そんなオシャレなことを言いながら、
センは、ケイルスに視線を戻し、
「良かったな、ケイルスさん。凌辱も殺戮もされないらしい。普通にぶっ飛ばされるだけで済むそうだ。どうだ、ウチのラスさんは優しいだろう? おまけにイケメンだろう? ……ちなみに、俺、賢くて優しいイケメンとか、虫唾が走るほど大嫌いなんだよなぁ……どうしよう、殺そうかな……」




