93話 3組のバカ。
93話 3組のバカ。
「あつかましさや図々しさや頭のおかしさという点において、貴様とカドヒトで、そこまで差がないということも分かっている。私は全部わかっている」
取り付く島もないケイルスに、
センがイライラしていると、
そこで、
「先生」
『センが理事長室から出てくるのをまっていたラス』が、近づいてきた。
ある程度の距離になったところで、クロッカやケイルスの存在に気づき、
「あっ」
一度、しっかりと、頭を下げて、
クロッカに忠誠の態度を示してから、
センに向かって、
「先生……さっきは、取り乱してしまい、ちゃんとお礼を言えなかったので、ここで正式にお礼を言わせてください。僕を……僕たちを命がけで救ってくれたこと、僕の呪いを解いてくれたこと……本当に……本当にありがとうございます」
丁寧に頭を下げるラス。
そんな彼の頭を見つめながら、
センは、ケイルスに、
「わかるかね、ケイルスくん。これが、『学院のために、命をかけて頑張った俺』に対する正しい態度というものだ。ラスくんは、世の理が非常によくわかっている。それに比べて、きみはどうだ。恥ずかしいとは思わんかね?」
と、カマシをいれてくるセンに、
ケイルスは冷めた顔で、
ラスを見下して、
「やはり、3組に所属するようなバカは、どうしようもないな」
と、吐き捨てた。
侮蔑されたラスは、バっと顔をあげて、キっとケイルスをにらみつける。
その視線を受けて、ケイルスは不愉快そうに、眉間にしわをよせて、
「なんだ、下等種。1組次席である私に、何か文句でもあるのか?」
ケイルスの性格……
『自分より下の人間のことは、とことん見下す』
ここに関しては、魔人も人間も関係ないあたり、
ある意味で、彼女は平等な人間と言ってもいいかもしれない。
「バカと言われたので、文句は当然あります。僕はあなたに何もしていません。それなのに、不当に侮蔑された。それで黙っているのは貴族の男じゃありません。取り消してください」
「ここにいるセンとかいう『愚かなだけの魔人』にシッポを振っているバカを、バカと呼んで何が悪い。私は貴様の成績や家柄に関してはどうでもいいと思っている。だが、『愚劣な魔人にシッポを振る者』に対しては正当に嫌悪感を抱かせてもらう」
「先生は、カドヒトというイカれたテロリストから、命がけで僕を守ってくれた。僕にかけられていた重たい呪いも解いてくれた。正直、先生は魔人だから、色々と思うところはあるけれど、助けてくれた恩人だというのは事実。それを尊べないのであれば、それは人間じゃない。魔人以下の家畜だ」
ラスの中では、まだまだ、魔人に対する差別意識が根強く残っている。
産まれた時から心身にしみついている思想が、そう簡単に消えるわけがない。
だが、『人間性の部分に絶対的な欠落を抱えている』というわけではないので、
『救われたことに対する恩義』を感じることはできる。
そして、その上で、『恩人を侮蔑された。ついでに自分も侮蔑された』ということで、反骨芯がむくむくとわいてくる。
ラスは、ケイルスとは違い、相手が自分よりも上位の存在だからといって、盲目にあがめるようなことはしない。
相手が誰であれ、バカにされたらちゃんとキレるという、普通のプライドを持ち合わせている。
歯をむき出しにするラスに、
ケイルスは、さらに表情を冷めさせて、
「下等な魔人ごときにやられ、そのピンチを、下等な魔人に救われて……情けなさもそこまでいけば、もはや、大したものだとすら思う。私ならば自殺しているよ。そこまでの恥をさらしてまで生きたいとは思わない」
徹底的に侮蔑されたことで、
ラスの視線に強い光が灯る。




