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92話 わん!


 92話 わん!


「教え導く者は、『教えを受ける側の学生』に対して、常に、凛としていなければならないというのが俺の考えだ。下手したてに出るなどもってのほか。ゆえに――腐っても教師である俺は、学生に対し、絶対に敬語を使わない。お前だけではなく全員に対し、俺は敬語を使わないと決めている。それが俺の流儀。教師としての哲学であり信念だ。相手を見て態度を変えるのは教師の態度としてふさわしくない」


 と、そこで、クロッカが、


「見上げた根性ね。さすが、私の犬だわ」


 と、そう褒めてきたので、

 センは、クロッカの足元に平伏して、


「わん! 褒められて嬉しいですわん!! わんわん!」


 と、全力で下手したてに出ていくという、カウンタースタイルをぶちかます。


 そのフリオチがしっかりと利いた態度を目の当たりにして、

 嫌悪感がマックスになったケイルスが、

 ゴミを見る目で、センに対し、


「クロッカ様も学生なのだが? もちろん、他の学生とは、まったく待遇が異なる超VIPなのは間違いないが、クロッカ様は、私が所属する1組の主席……つまりは、間違いなく学院の生徒の一人。貴様の信念が本物なら、クロッカ様にも敬語を使うべきではないはずだが?」


 と、鬼の首をとったような顔で、そう責め立ててくるケイルスに、

 センは、


「大事なはずの前提をシカトしていくダブルスタンダードは腹立つだろ? ――『アホを相手にするときは、痛みを伴う方法じゃないと、躾が成立しない』と言った、お前の先ほどの発言は、間違いなく正解だ。同じことをされて気づけ。てめぇのパワハラは度がすぎる。最低でも、事実は事実として正しく認識し、過剰なダブスタを即刻やめろ。お前がその不快な態度を貫く限り、俺もお前に対して、永遠に同じことをさせてもらうぜ」


「意味の分からないことをワーワーと。貴様はどうやら、本当に頭が悪いらしい」


 センの言葉を、ハナからまともに聞いていないので、当然、何を言われているか理解できない。

 自分が『相手の話を聞いていない』のが原因なのに、自分が理解できないのは『相手が意味不明な頭の悪いことを叫んでいるからだ』と断定し切り捨てる。


 こういう『話し合いにならない思考』が根底にある者が、妄想ファンタジーではなく、リアルに存在するのが、人間という種の怖いところ。


 結局、話し合いは平行線のまま、

 センとクロッカとケイルスの三人は、

 理事長室の外に出た。


 ケイルスとセンの確執は、まったく解消されておらず、

 むしろ、両者の間にある溝は大きく膨らんだ。


 廊下を歩きながら、

 ケイルスが、センに、


「貴様、結局、エトマス様に、過剰申請の取り消しを申し出なかったな。本当に、どういう神経をしているんだ。エトマス様から、どれだけの大恩を受けているのか、本当に分からないほどバカなのか?」


「うっせぇなぁ……まだ言ってんのかよ。……あのさぁ、ケイルスさんよぉ……もう、あんたに多くは求めねぇが、せめて、俺がカドヒトを倒したことぐらいは認めたらどうだ? エトマス理事やお前が、カドヒトに勝てるかどうかは、もうこの際、置いておくとして、カドヒトって魔人が、だいぶヤベぇヤツだってコトぐらいは、お前も知ってんだろ? そのヤベぇやつを、俺は、学院を守るために撃退した。もうそれでいいだろ。脳死でサンキューだけ言ってろや」


「カドヒトが迷惑な魔人であることは理解している。奇襲が大好きで、上級国民の寝首をかくことに無上の喜びを覚える変態だということも。そして、そんな変態を貴様が『取り逃がした』ということも。そして、あつかましさや図々しさや頭のおかしさという点において、貴様とカドヒトで、そこまで差がないということも分かっている。私は全部わかっている」



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