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91話 教え導く者。


 91話 教え導く者。


「この偉大なるエトマス理事長でも勝てなかったほどの男を……俺は始末したんだ。これは褒美をもらうに値する功績だと思うんだが?」


 あえて、エトマスを上げることで、相手に反論の余地をなくそうとする弁論強者セン。

 やみくもに口撃を仕掛けるのではなく、相手のウィークを的確につく。


 この攻撃を喰らえば、もはや、何も出来なかろう……と、センは思った。

 ウィークを攻めた上での、『事実』の正論押し。

 本来であれば神の一手。


 ……しかし、事実の正論押しが通じるのは、対等な立場の者に対してのみ。

 だった思想を持つ差別主義者に、正論など通じるわけがない。


 ケイルスは、センをねじふせようと、


「エトマス様は、高潔な御方。おそらく、お体が悪かったのでは? それを『言い訳には出来ない』とされる『高潔さ』は立派だと思いますが、事実は事実として、お伝えした方がよろしいかと。エトマス様が本調子であれば、魔人の賊程度、容易く返り討ちにできたでしょう。そうですよね、エトマス様」


「え、あ、うむ。ま、まったく、その通り」


「今回、1組は、課外活動に出ていたので、サポートできなかったが、もし、私がその場にいれば、カドヒトを逃がすことはなかった。間違いなく、その場で抹殺できていただろう。十七眷属の上位者であり、学院の理事長という二足の激務をこなす毎日……日々の業務で心身ともに疲れ切っておられて、まともに動くことができない状態のエトマス様。そんなエトマス様に無理を強いて、賊の相手をさせるなどもってのほか」


 ケイルスは、この辺の事を本気で思っている。

 ケイルスは、エトマスのことを、かなりガチで信頼している。

 幼いころから、エトマスの指導を受けてきたこともあり、信頼関係が出来上がっているのだ。


 エトマスは、魔人のことを差別しているし、無能な配下にも厳しくあたるが、有能な学生には甘いところもある。

 ケイルスからすれば、エトマスは、『極めて有能で、とても優しい、人生の師』である。

 だから、盲目的に信じてしまっている部分も多々ある。

 そして、エトマスは、ケイルスからの信頼を裏切れないとも考えており、彼女の前では必要以上にかっこつける。

 エトマスは『有能』であるがゆえに、『かっこつける』ということも丁寧にこなせてしまう。

 アホがかっこつけるとスベるだけだが、有能が本気でカッコをつけると、詐欺師的な勢いで、信頼度を増加させることが可能。

 結果として、ケイルスの信頼は爆上がりして、エトマスは、彼女の前では『引くこと』ができなくなる。


 ケイルスは、キっとセンを睨みつけ、


「貴様は、カドヒト撃退を功績と思っているようだが、突き詰めると、大失態を犯しただけ。貴様に褒美をねだる権利などない。むしろ、全力で謝罪すべき」


「見事な論調だ。理屈も事実も全部シカト、相手の発言も全部シカトで、とにもかくにも自分の言いたいことだけ、『自分が信じたい現実だけ』を世界に押し付けていく、そのストロングスタイル。お前には、弁舌で勝てる気がしねぇ。合格だ。いいモンスタークレーマーになりなよ」


 と、諦め交じりにそうつぶやくと、

 ケイルスは、目に力を込めて、

 センの頬を平手で、パァンと弾き、


「先ほどからずっと思っていたのだが……私にナメた口をきくな。下等な魔人風情が。私は上位者だ。貴様よりもはるかに階級が上だ。頭をさげろ。敬語を使え」


 その強烈な女王様ムーブを前にして、流石のセンも、普通にイラッとした顔で、


「……俺は別に、教師という仕事を丁寧にこなすつもりはないが、一応、教職についた以上は、教師的な仕事を、最低限、普通にこなそうと思っている。それを前提にしていうが、教師ってのは、生徒の御機嫌取りでも従僕でもなく、『教え、導くこと』にあると、俺は考える。教え導く者は、『教えを受ける側の学生』に対して、常に、凛としていなければならないというのが俺の考えだ」



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