89話 詫びろ、詫びろ、詫びろ。
89話 詫びろ、詫びろ、詫びろ。
「先ほどの、エトマス様への無礼を詫びろ。額を地にこすりつけて、心の底から誠意を示せ」
と言い捨てながら、センの頭を地面にたたきつけて、足でふみつけるケイルス。
そんな二人の様子を、クロッカは黙って見ていた。
この静観は、『クロッカなりの信頼の証』でもある。
センならば、ケイルスごときは自分で処理できるだろうと考えている。
ここで『自分』が何か口出しするのは、逆に、センのプライドを傷つけることになる……といったような思想が働いているからこそ、クロッカは完全に黙ったまま、すべての趨勢をじっくりと眺めている。
ケイルスは、センの頭をグリグリと踏みつけながら、
「さあ! はやく詫びろ!!」
と、強固な命令を継続。
センは、
「……何を、だ?」
と、踏まれたまま、あえて抵抗することなく、
言葉だけで、反逆の意志を示す。
「俺は何を詫びればいい?」
「やはり、魔人というのは、とてつもなく頭が悪いな! 何を詫びるべきなのか、先ほど、かなりの大声で叫んでやっただろうが! 耳も頭も、何もかも程度が低いのか! これだから魔人は嫌なんだ! 低能すぎる!」
そこで、さらにボルテージを上げていくケイルス。
続けて、より顔を真っ赤にしながら、
「貴様ら魔人に、クロッカ様やエトマス様のような『高貴な者』が一人も存在しない理由を考えたことがあるか! それは、貴様らが、極めて無能な下等種だからだ! まともな人材が出てこないから、重用もされない! それだけが真実だというのに、貴様ら魔人は……とくに、『カドヒトなどを筆頭とするクソバカテロリスト害獣魔人』どもは、差別がどうのこうのと、自分の無能さを棚にあげて、人間様に文句をつきつけてくる始末! 無能だから、使えないから、相手にされていないだけだ! 貴様らなど! まずは、それを自覚しろ!」
センは、頭を踏まれたまま、
ずっと、抵抗することなく、
「ワーワーと『聞いてない色々なこと』を言わなくていいから、俺の質問にだけ答えろよ……お前はずっと『何』に対して『詫びろ』と、俺に喚き続けている?」
「エトマス様に働いた無礼を詫びろぉおお! ここまでかみ砕いて言えば、その足りない頭でも、わかるか?! あぁ?! それと、私にタメ口をきくな! 下等な魔人ごときがぁ! 私は『1組の次席』にして、クロッカ様の『学院内における正式な従者ケイルス』だ! 貴様のようなカスとは、階級のランクが天と地なんだ! わかるか!」
「ケイルス……お前が言う、クソバカテロリストのカドヒトが、この学校を襲った。そこのエトマス理事は、一瞬で飛ばされてしまった。この学院に、カドヒトに抵抗できる戦力は他になし。そんな、この学校のピンチを、俺が体を張って救ってやった。大ケガを負いながら、命からがら、どうにか、カドヒトを撃退した……その報酬として、俺は、権利を求めた。命を張って大業を成し、その報酬を求めていながら、『検討する』の一言で済まされては、さすがにことだから、『俺が求めた権利がどこまで実現しうる』のか、最低限の線引き、その回答を求めた……」
たんたんと、とうとうと、センは、
「以上が、この場における俺の行動の全部だ……あらためて聞くぞ。どこに、詫びる必要性がある? 俺がやったことは、ただの報酬交渉だ。働きに対して報酬を求める……なぜ、そんな当たり前の事しかしていない俺が、詫びる必要がある? 俺は何を詫びればいい?」
「無能な魔人の身の上でありながら、栄光あるダソルビア魔術学院に、教師として雇っていただけている! 報酬というのであれば、それだけでも十分! その段階で、おそろしく過剰と言ってもいい! それほどの多大な恩のあるエトマス様に対して、『報酬をもっとよこせ』などとよく言えるものだ! 貴様に『さらなる報酬』をねだる権利などない!」
「なるほど、そういう思考か……」




