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87話 不幸。


 87話 不幸。


「先ほどの失態は、あくまでも、愚かなミスでございます! このエトマスの、誠の忠誠心を、どうか、どうか信じて――」


「うるさい。もういい。わかった」


「お、お許しいただけるのですか! ありがとうございます!」


 全力で頭を下げながら、心の中で、


(このクソチビバカ女がぁ……来るなら来ると、事前に告知しておけ……くそ……『不愉快な魔人』の前で、こんな無様な姿をさらさせやがってぇ……殺したい、殺したい、殺したいぃいいいい……っ!)


 ワナワナと震えながら、クロッカへの恨み辛みを吐き散らかす。


 そんなエトマスに、クロッカは、


「……で、何してたの? ここに、ウチの犬がいるけれど」


「え、あ、はい、えっとぉ……」


 普通に口ごもってしまうエトマス。

 こんな状況で、『あなたの犬を、理不尽な理由で痛めつけていました』などと、とてもじゃないが言えるわけがない。


 エトマスが言い淀んでいると、クロッカが、パァっと花のような笑顔になって、


「ああ、わかったわ。『カドヒトを撃退したこと』を褒めていたのね」


「……ぇ……ぁ……ぅ……」


「それで? どんな褒章を与えるつもりなの? 『十七眷属の中で上位の存在値を誇る、有能な才女であるあなた』ですら一蹴されてしまうほどのバケモノ……あの厄介極まりない活動家カドヒトを撃退し、あなたの大事な魔術学院を守ったウチの犬に、あなたは、どのような誠意でもって応えるのかしら? ぜひ、教えてもらいたいわね」


「ぁ……は、はい、えっと……そのですね……」


 いつまでも、もごもごと、まともに口が開かない様子のエトマス。

 そんなクソババアの横に立っているセンが、

 クロッカに、


「実は、先ほど、エトマス理事から――」


 と、エトマスよりも先に、先ほど何があったかを口にしようとしたので、

 エトマスは、人殺しの目で、ギリっと、センをにらみつけた。


 センエースは賢くないが、エトマスの瞳の意味が分からないほど愚かではない。

 だから、センは、あえて、ニっとまっすぐな笑みをエトマスに向けてから、


「今回のカドヒト撃退の功績を誉めていただき、今後、私に『気に入った魔人を自由に好きなだけ3組に編入させることができる権利』を与えるかどうか真剣に検討していただけるということになりました」


「なっ!」


「ですよね、エトマス理事長閣下様。それとも、違いましたっけ? ああ……そういえば、他にも何か色々と、お話をしましたよねぇ。そっちの詳細も、クロッカ様にお伝えした方がいいですか? この俺ですら見逃しちゃうレベルの、おそろしく小さな些事ですので、別にいいかなぁ、と俺なんかは思っているのですが、いかがでしょう?」


 と、嫌味に追い込んでいく。


(こ、このクソ魔人がぁ……やはり、『薄汚れた魔人』を大量に増殖させて、この学院を乗っ取るつもりか……け、穢らわしい……)


 今後も、学院内に、どんどん魔人が増えていく……そんな悲惨な未来を想像し、エトマスは、クラっとした。

 あまりの気持ち悪さで、一瞬気絶しそうになったほど。


(これ以上、私の大事な学院が、魔人に侵食されることは、断固として食い止めなければいけない……しかし、ここで、このクソ魔人に強固な姿勢で出ることは……)


 そこでチラッとクロッカに視線を向けるエトマス。


(ぐ……うぅ……)


 このウザ過ぎる状況……

 怒りと屈辱と絶望感と悲壮感で、

 心がぶっ壊れそう。


(な、なんで、私がこんな理不尽な目に合わないといけないんだ……)


 世の不条理に対して、深い怒りが込み上げてくる。

 己が世界で一番不幸なんじゃないかという勘違いに堕ちる。


 『世界中のあちこちで、謂れのない差別を受けている魔人たち』の方が、今のエトマスよりもよっぽど不幸……というか、『差別に苦しんでいる者たち』と比べれば、エトマスなど、何一つとして不幸ではないが、しかし、そんな理屈など、だった感情の前では何の意味も持たない。



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