86話 誰に口きいてんだ。
86話 誰に口きいてんだ。
「勝手な妄想を繰り広げたあげく、その妄想を軸にした処分を下そうとするとか……こいつは、もはや、ヒステリーどうこうってレベルの話じゃねぇなぁ……」
と、しんどそうに溜息をつくセン。
表面上は『何言ってんだか』という呆れ顔を貫いているが、
(……ふむ……なかなかするどいBBAじゃないか。ま、実際のところ、お前の妄想通りなんだよなぁ。……『ヒステリーを暴走させると、真実に届くこともある』……いやぁ、いい社会勉強になったよ)
などと、心の中でつぶやいていると、
怒りが限界に達したエトマスが、
「貴様、さっきから、その、ふざけた態度はどういうつもりだ! 自分の立場が分かっていないか! この、くされ魔人がぁああああああああああああ!」
よりバチバチにブチ切れ。
センに向かって、容赦なく、蹴る・殴るの暴行。
センは、防御に徹しながら、
「痛ぇっ……ぶげっ……いや、あの、ちょっと、ちょっと……俺が、クロッカ様の犬だってこと、忘れていません? 痛ぇっ! こ、これこそ、大問題になりますよ」
と、どうにか、落ち着けようと声をかけるが、むしろ、火に油。
「どいつもこいつもバカにしやがってぇえええええ! 貴様も、クロッカも、殺してやるぅうううう!」
ヒステリックに、そう叫ぶエトマスを尻目に、
センが、
(あーあ……完全に、頭に血がのぼって、ついには、とんでもねぇことを口走っているよ……クロッカ派閥の誰かに聞かれたら終わりだぞ。……どうやら、『本気で暴走した時のヒステリーBBA』は、思考がゼロになる模様……ほんと、良い社会勉強させてもらってるよ……あんまり、受けたくなかった授業だけれど……)
心の中で、そんなことをつぶやいた、
その時、
ガチャっと、理事長室のドアが開いた。
ノックもせずに、勝手に入ってこようとする不届き者の存在を感知するや否や、
エトマスは、さらに、『キィイイイイイイイ!!!』と、バチギレして、
「無礼者がぁあああ! ここをどこだと――」
勢いに任せてブチギレたエトマス。
しかし、部屋に入ってきた者の顔をみるなり、
すぐさま、顔がサァっと青ざめる。
悠然と部屋に入ってきた『エトマスよりもはるかに高貴なる者』は、冷めた表情で、
「この私に対して、そんな口をきいて……ただで済むと思って?」
理事長室に入ってきたのは、
『クロッカ』と、もう一人……『この学院内におけるクロッカの側近の一人』である『ケイルス』という、1組の女子生徒。
ケイルスは、従者らしく、クロッカの背後、一歩引いた場所に立ち、
クロッカは、ズンと、一歩、荒々しく、室内に踏み込む。
クロッカの冷めた表情を見て、エトマスは、真っ青になり、
「も、申し訳ございません、クロッカ様! 伏して謝罪申し上げます! た、ただ! ただ、願わくば、誤解なきよう! 先ほどのわたくしめは、クロッカ様以外の、学生か教員が、ノックもせずに入ってきたのかと思ってしまっただけで、もし、クロッカ様だと分かっていれば、決して先ほどのような暴言は吐いておりません! これが、これこそが、私の忠誠の証!!」
と、必死にそう叫びながら、
クロッカの足元で土下座をするエトマス。
迷いのないムーブ。
実に見事な処世術。
人を見て態度をゴロリと変える……この技能がなければ、『バキバキの縦社会』では生きていけない。
「どうか信じて頂きたい! もし、わたくしめに、わずかでも反意などがあるのであれば、あなた様の顔を見た瞬間に頭を下げることなどあるでしょうか! 先ほどの失態は、あくまでも、愚かなミスでございます! このエトマスの、誠の忠誠心を、どうか、どうか信じて――」




