83話 魔人は害獣だ。
83話 魔人は害獣だ。
「あれもいや、これもいや……それが通じるのは赤ちゃんの時だけだぜ」
そんなことを言うカドヒトを、
ラスは、本気の眼光で睨みつけて、
「……お、お前は……何がしたいんだよ……こんなことをして……僕をイジメて……いったい、何になるっていうんだ」
「差別主義者の末路を経験してもらって、意識に変革が起きるかどうか実験している。その実験結果を得られる。『何になるのか』なんて質問をする必要性は一切皆無。単純なお話」
「……差別だと? ……違うだろ……」
ラスは奥歯をかみしめて、
「僕は何も間違っていなかったじゃないか……担任のくせに、一目散に逃げたやつと……僕に、こんなことをやらせてくるテロリスト……魔人なんて、そんなのしかいないじゃないか……差別? 違う。魔人は性根の腐った害獣だ……僕は真実と向き合っているだけだ!」
「今、お前が受けている痛み……そんな『ひどい絶望』を『他者に与えるようなクズ』は差別されてしかるべき害獣。それがお前の結論でいいか?」
「いちいち、言うまでもないことだろ! そんなことは、バカでも分かる!!」
「ああ、そうだな」
そこで、カドヒトは、アイテムボックスから、資料の束を取り出して、ラスの前に放り投げ、
「今日、お前に受けてもらった絶望は、何もかも完璧に一緒ってわけじゃないが……だいたいは、人間が魔人に対してやってきたことをなぞっただけだ」
「……ぇ……」
「お前ら学生レベルでも、ウワサでは聞いたことあるだろう。魔人が虐待を受けているって話ぐらい。表向きに散見されている『軽いイジメ』程度じゃない……裏で行われている、非道な行いの数々」
『どこぞのアイドル事務所の社長が、未成年の所属タレントに性的虐待をしている』というウワサは、みんな、昔から、ちらほら聞いたことがあったが、実際、どのぐらい酷いことが行われているのか、それを、関りのない者が、詳細に知るという機会は少ない。
ラスたちのような一般学生の『魔人への虐待に対する認識』は、それに近いものがある。
『魔人が酷い目にあっているらしい』という噂は聞いたことがあるが、『へぇ、そうなんだ』『まあ、世の中、そんなこともあるかぁ』ぐらいで終わっていた。
「人が魔人にやってきたこと。その中でも……比較的『軽い方の罪』を一つ抜粋して、お前に経験してもらった。遊び半分に、笑いながら、目を潰したり、鼻を潰したり……そんなことは日常茶飯事。そういう直接的な暴力に飽きたクズは、さっき、俺がお前にやらせたようなゲームを開始する。『同族を殺せば、お前だけは助けてやる』って感じのゲームな。その詳細な記録が、その資料の束だ。誰がどこで何をしたのか……そのデータが、綺麗に残っている。酷いもんだぜ。クズの残虐性ってやつは、本当に、限度を知らない」
「……」
「別に、人間全部が同じことをしているなんて言う気はない。しかし、これはこれで現実だ。お前が、さっき言った……『こんなことをするやつは、差別されてしかるべき害獣』って発言。俺もその通りだと思うぜ。『差別するべき』っていうか、普通に害獣として駆除すべきだ。ただ、それを『魔人に対してだけ言う』のは、流石に不条理が過ぎないか? お前と同じ人間が、魔人に対して、想像を絶する悪意をばらまいていて……そんな悪意で一杯の胸糞の一部を、お前は、今日、身をもって体験した。中身のねぇ理不尽で不条理な差別の成れの果てを知った。さて、ここで質問だ。お前に対して、最後の質問をする……お前は魔人をどう思う?」
「……」
渋い顔で下を向く。
これまでの、何も知らない、何も経験していない無邪気なラスなら、何を言われたところで、問答無用の傍若無人に、『魔人は害悪』とのたまい続けたことだろう。
しかし、今のラスは……
「……」
渋い顔で黙りこくる。




