81話 差別。
81話 差別。
「差別主義者でなきゃ、そんな目に遭わなかったのになぁ……もっと言えば、この世に、魔人差別なんてものがなければ、別に、魔人に見えようがどうしようが、関係なかったのになぁ」
「……」
「差別の辛さってのは、当事者しか分からねぇ。差別を受ける側になって、地獄を見てみろ。そうすれば……多少は、てめぇの意識がかわる……かもしれないし、変わらないかもしれない。別にどっちでもいい。これは、あくまでも、実験だから」
「……い、いやだ……いやだ……うぼぉぇ!」
魔人として過ごさなければいけない未来を想像し、
頭を抱えて、血の混じったゲロを吐くラス。
そんなラスに、カドヒトは、
「呪いをときたいか? だったら、一つだけ方法があるぜ」
「え……」
希望のこもった目を向けてくるラスに、
カドヒトは黒い笑みで、
「この学校にいる連中を皆殺しにしろ」
「……」
「お前じゃ勝てないヤツもいるだろうから、力はくれてやる」
そこで、カドヒトはパチンと指を鳴らした。
すると、ラスの目の前に、浮遊する剣が顕現した。
「その剣に込めた魔力とオーラはハンパじゃない。装備すれば、それだけで、存在値70相当の出力を出せるようになる」
「存在値……70……十七眷属の中でも上位の力……」
「その通り。その剣の力があれば、ここにいる連中を殺すぐらいは、マジで楽勝。それを一時的に貸してやるから……やってこい。己の欲望のままに、全員の命を奪え。そうすりゃ、お前は穢れのない人間に戻れる」
「……そんなことしたら……と、とんでもない重犯罪者じゃないか……余裕で極刑になる……人に戻っても、死ぬだけで、意味がない……」
「魔人のまま生きるより、人として死ぬ方がいいんじゃね? だって、汚らわしい魔人で生きるなんて嫌だろ?」
「……」
泣きそうな顔をしているラスに、
カドヒトは、ニッと笑って、
「くく……冗談、冗談。そこに関してはケアしてやる。皆殺しの罪は俺が背負ってやるさ。あくまでも、ここにいる連中を殺したのは俺。そういうことにしてやる。お前は、たまたま生きのこった幸運な男……それだけの話さ。……いや『幸運な男』ってストーリーにすると、怪しまれる可能性があるか。……よし、じゃあ、お前は、『人類を罰する俺』という『深い絶望』の目撃者となるべく、あえて見逃された広報スポークスマンということにしよう。これなら筋が通る」
「……」
「どうする? このまま、魔人として生きていくか? それとも、全員を殺して人間に戻るか? 選べよ、人間。『魔人は汚らわしい』とのたまうその口で、どっちにするか、結論を出せ」
「……ぅ……ぅうう……」
散々、悩んだ末に、
ラスは、
「本当に……皆殺しにしたら……人間に戻れるの……?」
「逆に、それ以外に、お前が人として生きていく道はない」
「……」
さらに数秒、奥歯をかみしめながら悩む様子を見せるラス。
カドヒトは、
「まどろっこしいねぇ。この俺様の貴重な時間を、お前ごときが、何秒も奪うなよ。転移ランク5」
ラスと一緒に、転移した先は、
真っ白な空間。
体育館サイズの、その限定空間には、
ラスのクラスメイトが、拘束された状態で転がされていた。
全員、ケガはないようだが、状況的に、まったく動けそうにない。
「さあ、ラス……まずは、こいつらから殺していこうか。嫌なら別にいいが……そうすると、お前、一生魔人のままだぞ」
そんなカドヒトの言葉を聞いた、クラスメイトの『常識人ポニテ担当』のリノが、
「ら、ラスくん……」
と、震えながら、救いを求める視線を向ける。
状況がイマイチ飲み込めていないラスに、カドヒトが、
「こいつらを捕縛した俺の部下が、先に、簡単な状況説明をしている。お前が魔人に変化したことと、こいつらを殺せば、お前の魔人化が解除されること。……魔人が大嫌いなお前は、最終的に、クラスメイトだろうと関係なく殺すだろうってことも」




