80話 BBA。
80話 BBA。
十七眷属……この世界において、最高峰の資質を持つ超人だけが名乗ることを許される、最高位の地位。
そんな十七眷属の中でも、エトマスの存在値は、63と、かなり高い方。
ラーズ(90)、タンピマス(80)、カソルン(70)、オンドリュー(65)に次ぐ、序列五位の実力者。
そんな化け物BBAエトマスがきたとなれば、流石に、この絶望も終わるはず……
と、思っていた時期が、ラスにもありました。
しかし、実際は、
「どっはぁ!!」
ギャグみたいな速度……一瞬で顔面を蹴り飛ばされたエトマス理事。
強者然とした登場から数えてほんの数秒で、『鼻血だらけのボロボロ』になるという、哀れなザマ。
『完全○セルにぶっ飛ばされたミスタ○サタン』を想起させる、極上のみっともなさ。
エトマスを一発でのしてしまったカドヒトは、
自分の拳を見つめながら、
「あ、やべ……力加減、普通にミスった……とことん痛みを味わってもらうつもりだったのに……一撃で気絶させちゃったよ。いかん、いかん」
そう言いながら、カドヒトは、エトマスをたたき起こそうとした……が、
「んー、まあ、いいか……エトマスは、また、今度、ボコボコにしよう。それより……」
そこで、標的を変更するカドヒト。
その視線の先にいるのはラス。
睨まれたラスは、
「ひぃっ!!」
深い恐怖が刻み込まれてしまっているラス。
もはや、カドヒトの目を見るだけで、ションベンをちびりそう。
そんなラスに、カドヒトは、結構な回復魔法をかけた。
ほぼ全快に近いほど回復するラス。
ラスは、自分の体がほとんど完全な状態になったのを確認すると、
「え……ちょっ……また? ……な、なんで、僕ばっかり……」
また『回復からの拷問』を受けると思い込んでいるラスは、
なぜ自分ばかり『回復拷問のコンボ』を喰らい続けないといけないのか、
『ニスンとエトマスは気絶したら終わりなのにズルい』……とでも言いたげな目で、カドヒトをにらみつける。
そんなラスに、カドヒトは、笑みを向けて、
「最初に言っただろ? どのぐらいすれば、少しはマシな思想になるのか……そういう実験をしてみるのも悪くはないって」
「……」
「ここから、てめぇには居場所を失ってもらう。痛みを知り、居場所を失い、絶望の底に堕ちて……それでも、なお、魔人に対する差別思想に変動が起こらないのか否か……それを試そうと思う」
「なに……を……」
「幻想魔伝ランク7」
カドヒトが魔法を唱えると、
ラスの姿が、
「う、うわぁあ……うぉおお……っ」
一瞬で、魔人のソレに変化してしまった。
ラスの面影はがっつりと残っている。
彼を知っている者なら、一目で、ラスだと分かる程度の変化。
変化した自分の体を見て、ラスは、
「う、うわぁあああああ! な、なんだ! ま、まさか! 僕を魔人に変えたのか!?」
「そんな高度な魔法は使えねぇ。あくまでも、『そう見えている』というだけの幻影。本質は何も変わっていないが、お前の目と、他者の目には、魔人として映るようになっただけ。あくまでも、ただの幻影だが……かなり莫大な魔力を込めたから、その幻影を見破れるやつも、解除できるやつもそういねぇ。つまり、細胞から魔人に変えたのと、別に変わりはねぇってことさ」
「……」
「今後、一生、てめぇは、魔人だと誤解されて生きやがれ。それが、お前の贖罪だ」
「ふ、ふ……ふ……ふざけるな……そんな……酷い話……」
心底から絶望した顔をしていて、ワナワナと震えているラスに、
カドヒトは、
「差別主義者でなきゃ、そんな目に遭わなかったのになぁ……もっと言えば、この世に、魔人差別なんてものがなければ、別に、魔人に見えようがどうしようが、関係なかったのになぁ」




