79話 ニスン先生!
79話 ニスン先生!
「俺がお前を壊す時間に変動はない。だから、後半で反省した方が、精神的な被害は少ない……と俺は思うんだが、お前がどう思うかは知らんし、興味もねぇ」
「たす……けて……」
「これまでの歴史の中で、魔人って種は、みんな、心の中で、ずっと、それを叫び続けてきたよ。けど、誰も助けてくれない。お前みたいな差別主義者にボコボコにされてきただけ」
「……」
「なんで、お前を助けないといけない? なあ、教えてくれよ。なんか合理的な理由があるなら、一個でもいいから教えてくれや」
「……死にたく……ない……」
「みんな、そうさ」
そう言うと、カドヒトは、ショートアッパーで、ラスの顎を砕いた。
声にならない苦悩を叫ぶラス。
……そんな拷問の途中で、
「そこの魔人、貴様かぁ! この『イカれた結界』を張っているバカ者は!!」
2組の担任教師であるニスン先生が、
駆け寄ってきて、
「結界を張っただけでは飽き足らず、うちの学生に暴力まで……」
ボロボロになっているラスを見て、
ニスンは、全身にオーラと魔力を充満させる。
「やはり、魔人はクソだなぁああああ! 貴様らのような害獣は、一匹残らず、消えてなくなれぇえええええ!! 双光波ランク4!!」
と、全力の差別を叫びながら、
自身に撃てる最高の魔法を放った。
流石、魔術学院で教師をやっているだけあって、それなりに高性能な魔法を使う。
ニスンの存在値は43。
十七眷属の面々よりもワンランク落ちるが、
『かなりスペックが高い』と言って差し支えない実力の持ち主。
そんなニスンの全力の一撃……それを受けたのが、もし、そこらの魔人であれば、たとえ、『ジバ(存在値57)』ぐらいの実力者であっても、相当なダメージを受けていただろう。
しかし、もちろん、カドヒト(100)に、
ニスンの一撃など通じるはずがない。
カドヒトは、ニスンの双光波が当たる直前、綺麗な回し蹴りで、波動を、完全に打ち消してみせた。
パチュンと音をたてて弾ける双光波。
自慢の魔法を文字通り一蹴されたニスンは、
「……ふぇ……」
と、マヌケな声を出すことしか出来ない。
……その様子を見て、ラスは、しんどそうに、天を仰いだ。
教師が助けにきたことで、『よかった、これで助かるかも』と、どこかで期待したのだが、しかし、ニスン程度では、結果は何も変わらないという現実を理解し、つい、また、ボロボロと涙を流してしまう。
ニスンの攻撃を一蹴したカドヒトは、
軽く肩を回しながら、
「流石、アホのエトマスが理事をしている魔術学院……差別主義者の多い事、多い事……」
バチギレ顔を晒すと、鋭い眼光をギラつかせ、
「どっちが害獣か教えてやるよ……」
信じられない速度……一瞬で、ニスンとの距離をつめると、
そのまま、カドヒトは、ニスンの鼻に頭突きを入れた。
「ぶっはぁっ!」
当然、鼻はへし折れ、大量の鼻血が噴水になる。
急所をバチコリいかれ、秒で戦意喪失するニスンに、
カドヒトは、容赦なく、ダダダダダダっと、拳の連打を叩き込む。
サクっと意識を失って、ボロ雑巾のように、その場に転がるニスン先生。
その、恐ろしいほど呆気ない様を目の当たりにしたラスは、
「は、はは……ははは……」
と、もはや、笑うことしか出来なかった。
深い絶望感の底で、ただただ涙を流すだけのラス。
このまま、カドヒトに殺されて死んでしまうのだろうか……と、
思った、その時、
「……私の学院で……好き勝手をしないでくれるかしら」
バッチバチのオーラを放ちながら、
カドヒトの方に近づいてくる女性。
彼女の姿を見たラスは、
「や、やったぁああ! ははははは!」
と、歓喜の声を上げた。
彼女の名前はエトマス。
この学院の理事であり、
十七眷属の一人である。




