77話 プライド。
77話 プライド。
「え……ハズれた? い、いや、間違いなく当たって……え、なのに、なんで……どうして……」
当たったはずなのに、なんともなっていないカドヒトを見て困惑・混乱するばかりのラス。
そんなラスの狼狽を、また笑いながら、
カドヒトは、ゆっくりと、ラスとの間にある距離を詰めながら、
「お困りの様子だから、選択肢をやるよ。『A、実はハズれた』『B、ひそかにかき消した』『C、俺に氷は効かない』『D、俺に矢は効かない』『E、全宇宙最強の俺からすれば、お前程度の攻撃なんざ、鼻息と変わらない』……さて、どれでしょう。五択だから、ちょいと難易度が高いが、冷静に考えれば、正答が見えてくるはずだ」
「……うぅ……ぅうう……」
圧倒的な強者感を放つカドヒトのオーラを前にして、プルプル震えながら、後ずさりするしかないラス。
そこらの一般生徒であれば、もはや、『攻撃する』という選択肢はとれないだろうけれど、ラスの中の『プライド』だけは、どうやら、なかなかに一丁前だったようで、
「うぉおおおおお! ナメるなぁあああああああ!!」
追い込まれたことで、燃え上がった闘志。
今のところ、プライドしかない分、そこをけなされたら、一直線に爆発する。
「連続・豪氷矢ランク3!!!」
怒りとプライドに任せて、高難度の魔法を成功させるラス。
これまで一度も、このランクの上位魔法を成功させることはできなかったのだが、しかし、感情の暴走が上手くサポートしてくれたようで、見事に、上位魔法を顕現させた。
「……くらぇええええええ!」
全部で5本の豪氷矢が、カドヒトに襲い掛かる。
ラスは、頭の中で、
『流石にこれなら、ダメージは通るはず。というか、さっきの豪氷矢も、たぶん、外れただけだろう。当たれば、流石に、それなりのダメージにはなるはずだ。下手したら殺してしまうかもしれないけれど、相手は魔人だ。別に死んでも問題はない』
以下のように、甘く考えていた……
のだが、実際のところは、
「……え……」
間違いなく全弾命中した。
その手ごたえはあった。
決して、かき消されたわけでも、外れたわけでもない。
全部、そのまま、直撃した……のに……
「上位魔法は使えない……と聞いていたが……ほう。俺とのやりあいの中で、覚醒した感じか……まあ、覚醒って呼べるほどの爆発力はないけどな。『目を見張る成長』って評価が精々かな」
などと、ダラダラ、ラスの成長を評価しているカドヒト。
ダメージを受けている様子は――皆無。
完全なノーダメージ。
――『ランク3程度の魔法など、一切効かない』
……『そんなふざけた話など、あるわけがない』
……『そう思いたい』のは、やまやまなのだが、
しかし、目の前の現実が、これでもかと、意識の全部に刷り込まれる。
カドヒトは、軽く首をコキコキと鳴らしながら、
「資質や、根性……あと、プライドって点だけを見れば、てめぇは、なかなかの器だと言える。大器晩成型で、現状の成長率はかなり緩やかだが、それでも、たゆまぬ研鑽を継続できる、なかなか稀有な努力型……悪くない……悪くないんだが……差別主義者って肩書きがある以上、他のどんな有益な情報も、全部、真っ黒に塗りつぶされちまう。……いい加減、気付いた方がいいぜ。血だの人種だので、相手をはかるという行為は、てめぇの価値を落とすだけだっていう社会的な摂理に」
「本当に……ランク3の魔法が……効かないなんて……そ、そんな……そんな『別格の上位者』なんて……龍神族とか、十七眷属ぐらいじゃないの……? なんで、名もない魔人が……」
「その認識は別に間違ってねぇよ。けど、名のある上位グループの外側にも、強者はいるもんなんだぜ、往々にして。数はめちゃくちゃ少ないけどなぁ」
 




