76話 何かいいことでもあったのかい?
76話 何かいいことでもあったのかい?
(この感じ……なんだ……)
『空間全体に魔力を行使されている気配』を感じ取ったラス。
別に、そういった技能に長けていると言うわけではない。
ただ、あまりにも明確だったと言うだけの話。
ゆえに、ラス以外の学院関係者も、普通に違和感に気づき始める。
ただ、もう遅かった。
包囲網はすでに完成していた。
現状、この学院全体が、
強烈な結界に包まれている。
もはや、誰も逃げられないし、外から救援が来ることもない。
「な、なんだ……っ」
『学院全体が結界に包まれている』と即座に理解できるほどの見識がないラスは、何が何だかわからない現状に、ただただ戸惑い右往左往するばかり。
そんな彼の背後に、次元の亀裂が入った。
現状、この学院……この空間内で自由な移動ができるものは限られている。
それは、邪教団ゼノに所属するメンバー。
次元の亀裂を超えてやってきたのは、
ゼノの絶対的リーダー、
カドヒト・イッツガイ。
あまりに怪しすぎる侵入者――『カドヒト』を見つけたラスは、
「う、うわ! なんだ、お前! 何者だ!」
距離をとりながら、
いつでも魔法を使える準備を整える。
そんなラスに、
カドヒトは、
「はっはー、元気いいなぁ。何かいいことでもあったのかい?」
などと、全力で煽っていく。
ラスは、全力で、両腕に魔力を集めながら、
「何者だと聞いているんだ! 貴様、魔人だな! 愚か者め! やはり、魔人は頭が悪すぎる! いいか! ここは栄誉あるダソルビア魔術学院だ! 魔人が立ち入り禁止なのは当然として、普通の一般人でも、学院関係者以外は立ち入り禁止なんだ! わかっているのか! お前みたいな穢れた存在が足を踏み入れていい場所じゃないんだ! わかったら、ただちに、この場から立ち去れ! この忠告に従わない場合、魔法の矢で撃ち抜く!」
そんなラスの目一杯の叫びを、
カドヒトは、鼻で笑い、
「また、なかなかの差別主義者だな。いまさら、別に、珍しくもねぇから、驚きもしねぇけど」
などと、ダルそうにそう言い捨ててから、
両手を広げて、
「撃ちたいなら、撃っていいぞ。ほら。好きなだけかましてこい」
「な、なめるなよ! 僕は、この学院の学生で、そして、気高い血を持つ貴族だ! 僕の矢を受ければ、お前は死ぬ! 僕は、別に、魔人殺しがしたいわけじゃない! 劣った存在と関わりたくないだけだ! だから、今すぐ、ここから――」
「気高い血ねぇ……ちなみに、俺は、『気高さの意味』をはき違えたヤツのことを、『穢れた脳を持つ劣ったバカ』と認識しているんだが、その点について、どう思う?」
「き、貴様ぁああ! ぼ、僕を……ぶ、侮辱したなぁあああ!! こ、こ、この僕を、穢れた存在だと……ゆ、許せないぃいいい!」
本気の怒声を叫ぶラス。
頭に血が上り切ったラスは、
両手にためた魔力を、そのまま、惜しみなく解放することにした。
「豪氷矢ランク3!!」
殺意を込めて、全力で射出した豪氷矢ランク3。
バチギレの怒りで、いくつかのリミッターが外れた魔法……その速度は、通常時の5割増しと、なかなかの速度。
2組や1組の優秀な学生であっても、対処するのが難しい、相当なスピード。
そんな、なかなかの魔法に対し、
カドヒトは、半笑いで立ち尽くすだけ。
ピクリとも動くことなく、
顔面で、ラスの豪氷矢を受け止めた。
間違いなく、顔面に直撃……したはずなのに、
カドヒトは、何事もなかったかのように、あくびをしている。
その様を見たラスは、
眉間にしわを寄せた怪訝な顔で、
「え……ハズれた? い、いや、間違いなく当たって……え、なのに、なんで……どうして……」
当たったはずなのに、なんともなっていないカドヒトを見て困惑・混乱するばかりのラス。




