表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

75/223

75話 違和感。


 75話 違和感。


「こんなにいい教科書を使っているというのに、君は、まったく活かしきれていない」


 そう言いながら、センは、先ほど破ったはずの『ラスの教科書』を、手の中でヒラヒラとさせる。

 先ほど、間違いなく、グシャグシャになったはずだが、しかし、今、センの手の中にあるソレは、完全に元通りになっていた。


 それを見たラスは、目を丸くして、


「なっ……え?! 僕の……え、なんで……さっきビリビリに――」


「俺がそんな事をする訳ないだろう。俺を誰だと思っている? あの、センエースさんだぞ?」


「……」


 『どこの誰だよ』と言いたげな顔をしているラスだが、

 しかし、それを口に出すことはない。

 すべてに威圧・圧倒されてしまい、

 ただただ、奥歯をかみしめる事しか出来ない。


 そんな彼に、センは、


「この教科書は、実際のところ、それなりにいいことが書かれている。もし、内容を全て理解できたら、その時、お前の使える魔法のランクは、1上がっていることだろう」


「……」


「人間の可能性と、世界の広さを勝手に限定するなよ、ラス。強い知識は器になる。俺の言葉を盲信する必要はないが、無意味な嫌悪感に呑まれて、あえて無理に未来を閉じる必要はないだろう」


「……え、偉そうに……教師でもないくせに……」


 ギリっと歯噛みしながら、まだまだ反骨精神をむき出しにしているラス。

 センは、そんな彼に、


「知識を与えるのは専業教師じゃなくても出来るさ。本気で学ぶ気があれば、この世に存在する万物が教材たりうる」


「……」


「俺を貴重な教材として便利に使うか……それとも、意味のないプライドを優先させて、貴重で希少な機会を失うか。それは自分で決めればいい。俺は強制しない。最初からずっと言っている通り、俺は、本物の教師じゃないから、聞く気のないやつに話を聞かせるという業務はこなさない。好き放題、勝手なことを言うだけだ。聞きたければ聞けばいいし、聞きたくないなら聞かなくてもいい」


「……じゃあ、聞きません! あなたの相手なんて、するだけ無駄だ!」


 そう叫ぶと、ラスは、センの手の中から教科書を奪い取って、そのまま、教室から出ていった。


 その背中を、センは追ったりしない。

 センエースは教師ではないから。


「さて、それじゃあ、授業の続きをしようか。まあ、授業っつぅか、俺の勝手なおしゃべりだけどなぁ。聞く気のあるやつだけ耳を傾けろ。別に、もう、シカトすんなとは言わねぇ。聞きたくないやつは、自習するなり、寝るなり、好きにしろ」



 ★



 教室を出たラスは、

 ギリギリと奥歯を噛み締めながら、


(あのクソ魔人……僕を見下しやがって……幻影の魔法が得意なのは認めるが、あんたなんて、それだけだろうが!)


 最終的にラスは、

 センが成した全てを、

 『ただの幻影でしかない』と結論づけた。

 30本もの豪氷矢を使うなど、あり得ない。

 そういう魔法を使ったという幻影を見せられただけ。


 あの魔人は、小細工が上手いだけで、決して優れた魔法使いではない。

 ――それがラスの答え。

 だから、『センの言うことを聞こう』などとは思わない。


(こうなったら仕方ない……あまり好ましい行為ではないけれど、ハロと共闘して、あのクソ魔人をボコボコにしよう……どっちの方が上なのか、ちゃんと理解させないと気がすまない。僕は貴族で、あんたは魔人。この差は絶対に埋まらないんだ!)


 自分と同じくセンのことを嫌っている、筋肉ヤンキー担当のハロ。

 彼と共に力を合わせれば、幻術が得意なだけの魔人など余裕でわからせることができる。


 そう信じて、ハロを探しに向かうラス。

 と、その途中で、


「ん?」


 ラスは、違和感に気づいた。


(この感じ……なんだ……)



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ