73話 魔法っつぅのは。
73話 魔法っつぅのは。
己の無力をかみしめながら、
死ぬしかないのか……と、絶望に染まっているラス。
だが、彼は死ななかった。
30本の豪氷矢は、ラスにあたる直前で静止していた。
ギリギリの寸止め。
「あ……ぁ……」
ギリギリのところで、自分は死んでいないと理解できたラス。
足に力がなくなって、ズルっと、その場でしりもちをつく。
呆けているラスに、
センは、
「それではここで質問だ。――そもそも、魔法とは何か。これを一言で言えるかな?」
と、『最初に提示した質問』を繰り返す。
ラスは、その問いに対して、
「……う……ぅう……」
口を開けない。
『明確な死を前にした恐怖』がまだ残っているから動けない。
そんなラスから視線を外し、
センは、クラス全域を見渡しながら、
「別にラス以外の誰でもいいぞ。あと、別に間違っていたからって怒る気はないから、気軽に答えろ。もし、俺が怒るとしたら……そうだな……授業をシカトされた時かな」
と、あえて、ウインクをしながら、そう言うと、
教室にいる学生全員の背筋が凍った。
『自分たちがヤバイことをしている』ということにようやく気付く。
『センエースに上等をかます』ということのヤバさにようやく気付く。
「あの……セン先生」
と、最初に、勇気をもって手をあげたのは、『常識ポニーテール担当のリノ』だった。
「はい、リノくん。答えをどうぞ」
指名されたリノは、おずおずと、
「……えっと、ま、魔法とは……普通だと認識できない、特殊なエネルギーを実際の形にするものです」
「非常に美しい解答だ。グリフィ○ドールに10点」
「ぐり……え?」
「だから、俺の病気は気にするなと言っている。……最初にシッカリと言っておくが、俺は、ちゃんと病気だから、言語が頻繁にバグる。本当に、頻繁にバグるから、いちいち気にするな。俺の病気が発動した時は、『ああ、可哀そうに、いつもどおり、脳が残念な人なんだな』と思っていればいい」
「は、はぁ……」
「魔法っつぅのは、正式に言うと、幽界の虚数エネルギーを顕界へと確定させていく高次演算。ちょっと何言っているかわかんないアレだが……まあ、それを、かみ砕いて言えば、さっき、リノがいったソレになる。『なんかよくわからんエネルギーを、現実の世界で形にするもの』……ちなみに、『だからなんだ』って質問はするなよ。別に、俺は、これを言いたかっただけで、そこから先に派生する教えとかはないから」
そう言いながらも、
センは黒板に、自分が知っている『魔法に関する叡智』のカケラを記していく。
センは、黒板をチョークで、トントンと叩きながら、
「正直、俺も、『魔法の根源』が何か……その辺の詳細は知らん。リノも言った『なんだかよくわからんエネルギー』ってやつが、マジで意味不明だからな。原理の根源みたいなもんは永遠に不明……だけど、研究に研究を重ねた結果、再現性の高い法則の大半は判明した。そして、その『法則に関する知識』があればあるほど、魔法の質を底上げできるということも分かっている」
黒板に記されているのは、
『幽界の虚数エネルギー』に関する小ネタ。
『派生する教えはない』と言いながら、しかし、しっかりと、実のある派生先を綴っていく、イカれた閃光。
「たまに、魔力とマナをごっちゃで考えるやつがいるが、この二つは、明確に違う。マナは『場のエネルギー』で、魔力は『個のエネルギー』だ」
マナ=大気中に漂う魔素。
魔力=体内に循環する魔素。
この二つを『理解』するだけで、実のところ、魔法の伝導率は底上げされる。
回復魔法などは、人体に関する知識の量で回復量が変動する。
それと同じように『魔法に関する知識の量』で魔法の性能は変動する。




