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72話 命の格差。


 72話 命の格差。


「豪氷矢ランク3!!! 豪氷矢ランク3! 豪氷矢ランク3!」


 と、強力な魔法を3連発するラス。

 ラス程度の存在値と魔力で『ランク3』の魔法を連発することは普通不可能なのだが、

 ラスの『豪氷矢』は、使用時のMP消費量がかなり少ないので、

 無理をすれば、こうして、連発することも可能。


 豪氷矢を3本連続で撃ち込まれたセンは、

 まあ、言うまでもなく、楽勝で、

 3本全ての豪氷矢を指一本で消し飛ばし、

 その流れの中で、


「教えてやろう。魔法の連射ってのは、こうするのがベストだ。――連続・豪氷矢ランク3」


 そう宣言した直後、

 センの周囲に、全部で30本の豪氷矢が出現する。


「なっ……あっ……」


 一目では数えきれないほどの膨大な豪氷矢を魅せつけられて、

 ラスは、普通にたじろいだ。


 その様を見て、センは、グイっと口角を上げて、


「これが、本当の『命の格差』ってやつだ。てめぇの中にある『錯覚の差別』とは違う。『魔人がどうした、人間がなんだ』という幻想にとらわれているお前では永遠に届かない世界に、俺はいる」


「う……ぅ……」


 あとずさりするが、背後には壁があって、それ以上、後ろには下がれない。


 青い顔になっているのはラスだけではなく、周囲の学生たちも、

 センの異常な魔法を魅せつけられて、何も言えずに呆けてしまっている。


 彼・彼女らは、『魔法』に関して、現状、そこまで詳しくない。

 『本気の魔法使いと殺し合いをした経験』など皆無。

 だから、実際のところ、『高位の大人の魔法』がどれほどのものか知らない。

 ゆえに、センの魔法の凄さが、正式には分からない。


 ……だが、この威圧感。

 『クラス内ではハロに続いて存在値序列2位であるラス』の『本気の魔法』を余裕で大幅に上回る、その圧倒的な魔力を前にして、『多少の理解』すらできぬものは、流石に一人もいない。


「最後のチャンスをくれてやるよ、ラス。土下座して、俺の靴をなめろ。そうすれば、殺さないでおいてやる。これは最後の慈悲だ」


「……きょ、教師が……学生を……殺すわけ……」


 まだ、常識に縛られているラス。

 極限状態ですがりつけるのは、いつだって、自分の中にあるものだけ。


 ただ、当然、『常識の向こう側』にいるセンエースに、

 『ラスの中だけの常識』など通じない。


「俺は教師じゃねぇよ。春先によく見かけるキ〇ガイの完全上位互換……それ以上に進化することはあっても、それ以外にはなりえない」


「……」


「さあ、ひざまずけ。そして、命乞いをしろ。小僧から石を取り戻せ」


「……こぞ……いし……ぇ?」


「最後のは気にするな。ただの病気だ。俺が『終わっているキチ○イ』であることの証明に過ぎない」


 と、前を置いてから、


「さあ、どうする、ラス。優しい俺が、お前に、選ばせてやる。魔人の足元に這いつくばるか……それとも、己のチンケなプライドを優先させて、この場で人生を終わらせるか」


「う……ぐ……」


 どうしたらいいのか分からないという顔をするラス。

 そんなラスに、センは、ニィイっと黒い笑みを浮かべて、


「時間切れだ、クソガキ」


 そう言ってから、パチンと指をならした。

 それと同時、それまでは浮遊した状態で静止していた『30本の豪氷矢』が一斉に、ラスめがけて飛んでいく。


「うわぁあああああああああああああああああああ!!」


 ランク3の魔法が30本も直撃すれば、当然死ぬ。

 死を間近に感じたラス。

 『反射的にあふれる涙』で視界が埋め尽くされる。


 何も見えない。

 何も出来ない。


 己の無力をかみしめながら、

 死ぬしかないのか……と、絶望に染まっているラス。

 だが、彼は死ななかった。

 30本の豪氷矢は、ラスにあたる直前で静止していた。



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