64話 無傷。
64話 無傷。
(……限定空間……この魔人……そんな『高度な魔法』が使えるのか……なにもんだよ……っ)
と、また一つ、理性的な恐怖をおぼえる。
そんな彼の前で、
センは、首をコキコキと鳴らしながら、
「教師の頭を鈍器で全力殴打とは……ハイスクール濃度がビーバップにもほどがあるぞ、お前」
そう言いつつ、オーラと魔力を、
丁寧に練りあげて、
「普通の教師モノだったら、含蓄のある言葉とか、精神的な指導とかで、お前の腐った性根を叩きなおすんだろうが……しかし、現状は、教師モノじゃなく、どっちかと言えば、パニックホラーだから、そういう、丁寧な導きとかはねぇんだわ」
そう言いながら、
ゆっくりと、ハロの元に歩いていく。
その歩みに、ハロは、一瞬、ビクっとしながらも、
しかし、ギリっと奥歯をかみしめて、
「な、ナメんじゃねぇぞ、クソ魔人野郎がぁあああああ!」
心を燃やして、
魂を焦がして、
恐怖心をかなぐり捨てて、
ハロは、センに、ハンマーで殴りかかった。
先ほどの一撃が完全に無意味だったため、『もしかしたら、衝撃系の耐性が異常に高いのかもしれない』などとも思ったが、しかし、現状、刃物系は持ち合わせておらず、また、魔法による攻撃も、そこまで得意ではないため、『無意味かもしれないハンマー』を使わずにはいられない。
※ 拳も同じ衝撃属性であるため、ハンマーを棄てて殴り掛かるという選択肢はない。
「死ねよ、クソ魔人! うらぁああ、うらぁあ、うらぁああああ!」
何度も、何度も、全身全霊の力を込めて、
センの頭部を砕こうと必死。
……当初は『本気で殺す気』とかはなかった。
大ケガの一つでも負わせてやろう……ぐらいの心持ちだった。
……のだが、恐怖に支配されている現状では、
『殺さないと殺される』という精神状態になっているので、
両手に、本気の殺意がこめられている。
「なんでだぁああ! なんでだよぉおおお! どういうことだぁあああ! なんで、まったくの無傷なんだよぉおおお! ありえねぇだろぉおおおお!」
重たいハンマーで、死ぬほど殴りつけたのに、
まったくダメージを受けた様子がないセンの姿を見て、
ただでさえ肥大化している『ハロの中の恐怖心』が、もっともっと膨らんでいく。
「死ね、死ね、死ねぇえええ!」
と、恐怖心をブースターにして、何度も何度も殴り掛かるハロ。
そんな彼に、センは、ニっと渇いた笑顔を魅せつけた上で、
「きかないねぇ、ゴムだから」
と、謎の発言をぶちかまされて、
ハロは、眉間にしわをよせ、
「……ご、ごむ……? は?」
と、尋ねると、
センは、先ほどよりも『もうちょい軽い笑顔』を浮かべて、
「気にするな。ただのテンプレだ」
と言いながら、
握りしめた拳を、
ソっと、ハロの腹部にあてた。
トンと、かるく触れる程度の衝撃……
感じるか感じないか程度の、そよ風に撫でられた程度……
――だったのだが、しかし、
「うぼっ!!」
ハロは、ゲロを吐き散らかしながら、その場で、腹を抱えて、うずくまる。
一回だけの嘔吐で終わらなかった。
『生ガキにあたった時のゲリ』ぐらいの、『止まり方を忘れた勢い』で、
「うげぇっ! がはぁっ!!」
と、腹の中にあるものを全部吐きだすだけでは飽き足らず、
そこそこの血も吐きはじめている。
その悲惨な状態のハロの頭を、
センは、ガっと踏みつけて、
「これが、普通の教師モノだったら……生徒に、ここまでのことはしないだろう。だが、この『頭おかしい世界選手権無限連覇中のセンさん』に、そんな常識は一ミリたりとも通じねぇ」




