63話 死ねよ、クソ魔人。
63話 死ねよ、クソ魔人。
「俺の発言は基本的にバグっているが、今の俺の発言だけは完全にガチだ。もし、報告を怠った場合、俺はマジで、お前らの元を去る。これを、俺は、絶対のルールとして、俺の魂の深部に刻む」
「……」
「いいな。……返事は?」
「セン様……これは、本気の忠告なんやけど……あなたは……あまりにも、過保護すぎや。もうちょっと自分優位で生きた方がええ」
ビシャは、『兄を助けてもらえた』という初手の時点で、その恩を返すため、センに尽くすと心に決めていた。
自分では、その時点で、『忠誠心カンスト』だと認識していたのだが、
しかし、時間が経つたびに、ビシャは、どんどん、『忠誠心』が増していくのを感じている。
このセンエースという男……表面だけを見ると、『ただのやべぇキチ〇イ』なのだが、
言動の本質を深掘りしていくと、病的としか言えないほどの『狂った高潔さ』にまみれており、やることなすことすべてが、他者への配慮と優しさに溢れていた。
※※センエースを知ったことで、
ビシャは、産まれて初めて、
『高貴』という言葉の本当の意味を知ったような気がした。
真の『気高さ』とは、本来の『尊さ』とは、こういうことを言うのだ……と、心の底からそう思うようになった。
だからこそ、ビシャは、より深く、より重く、より踏み込んで、センエースの言動に注意を払う。
『あなたは美しいんだから、美しくあれよ』と本気でメッセージを飛ばす。
その言葉の意図は純粋で無垢。
『そんなふざけた言動をしていたら誤解されてしまう。あなたは何より尊い存在なのに、
わざわざウンコのジャケットを着こなしたりするから、何も知らない初見さんは、やべぇキチ〇イだとしか思わない。それが私は悔しい』
彼女は、自分の想いを、どうにか伝えようと、色々と言葉を駆使しようとした……
……が、しかし、その時、
「クソ魔人、死ねぇええええ!」
背後から、
猿顔の馬鹿やろうが、
でっかいハンマーを振り上げながら突進してきて、
センの頭に思いっきり、勢いよく振り下ろした。
ガツゥウウンッッ!!
と、センの脳天に直撃する、ハロのハンマー。
かなり重たそうな、殺意の塊である鈍器を、ハロの怪力で思いっきり振り下ろされた。
普通なら死ぬ。
間違いなく大ダメージを負う。
それほどの一撃だった……にもかかわらず、センは、微動だにしなかった。
ハンマーをたたきつけられた衝撃で体が震える……とか……そんなことすらない。
本当に、まったく、何もなかったかのように、涼しい顔をしているばかり。
そんな、あらゆる意味で『まったくの無反応』を魅せつけてくるセンの背中に、
ハロは、
「ぇ……そんな……ぁ……っ」
また、『本能性の恐怖』を覚える。
ただ、今回は、前回と違い、明確に『恐怖を抱く理由』があるので、
本能サイドだけではなく、理性サイドの方も確かな『恐怖』を感じているようだった。
(ハンマーを……全力で頭に落とされたんだぞ……それなのに……こんな……)
まったくダメージを受けていない……どころか、衝撃すら感じている様子がないセン。
むしろ、大きな衝撃を感じたのはハロの腕の方。
……ただ、それも、『衝撃を感じた』というだけで、重たい痺れとかはなく、
『逆にハロの腕の方が折れてしまった』とか、そういう現象もない。
まるで、衝撃吸収のゲルでも殴ってしまったかのように、
ハロの腕の方にも、なんの問題もない。
正直、それが何よりも大きな衝撃。
センは、しっかりと、
自分の『背中』を、ハロに魅せつけてから、
ようやく、ゆっくりと振り返って、
ハロの目をジっと見つめ、
「今のは、痛かった……」
そこで、一つためてから、
「いたかったぞぉおおお!」
と、そう言いながら、
指をパチンと鳴らして、
無詠唱で『限定空間』にハロを引きずり込む。
センと、ハロと、ビシャと、ジバ……この四人しかいない真っ白な世界。
引きずり込まれてすぐ、
ハロは、
(……限定空間……この魔人……そんな『高度な魔法』が使えるのか……なにもんだよ……っ)




