56話 実験の本質。
56話 実験の本質。
「で、なにか質問かな?」
「はい。あの……悪い意味ではないのですが……どうして、先生は魔人なのに、先生になれたのですか? 確か、この学校、魔人は先生にも生徒にもなれなかったはずじゃ」
「いい質問ですねぇ」
と、センは、どこかのジャーナリスト教授ばりに、そう言ってから、
「まず、お前ら全員に、最初に、ちゃんと言っておこうと思う。俺は、クロッカ様の犬だ」
その言葉に、この場に残っている六人の学生たち全員がザワっとする。
「てか、そうでもないと、魔人が教師とか無理だろ? 俺は、簡単に言えば、実験体だな。魔人を学校に送り込むことにより、どのような新しい風が吹くのか、現状の閉塞した教育現場に、一石を投じることが出来るのか。……ちなみにリノくん、君はどう思うかね?魔人を学校に送り込むことで、新しい旋風は巻き起こりそうかな?」
「え? いや、えっと……正直、わかりません……今まで、私は、魔人と接する機会がありませんでしたから……魔人が教師をすることがいいのか、悪いのか……全然わかりません……」
と、そう答えた彼女に、
センは、
「まあそうだろうな。別に、分からないことを恥じることは一切ない。それに、この件に関しては、誰も、わかるやつはいねぇんだから。だって実験だもん。どうなるか、誰も分からないから、実際にやってみよう……それが『実験』の本質だ」
「……は、はぁ……」
「教育現場に魔人を投入するのは、良い結果を生むのか、それとも真逆なのか。それを確かめる大いなる実験の現場として、このダソルビア魔術学院の3組が選ばれたのだ。栄誉ある実験台になれたこと、みな、誇りに思うように」
そんなセンの発言に対し、
このクラスの『ヤレヤレ系インテリ眼鏡男子担当』である『ラス』が、
「モルモットになることを誇りに思うようなバカがいると思いますか?」
と、厳しい顔つきで、そう言ってきたので、
「いや、知らんけど。俺、世の中に詳しくないから。ただ、中にはいるんじゃないか? モルモットになることを喜ぶ変態も。世間は広いからねぇ。どんな変態がいてもおかしくねぇ。豚野郎ってなじられながらムチで打たれることを喜ぶ奴もいる。それも現実。……ちなみに、俺はモルモットになるのが大嫌いだ。実験に利用されるとか絶対にごめんこうむる」
シレっとそんな風に返されたことで、イラっとしたのか、
眼鏡男子担当のラスは、立ち上がって、語気を荒くして、
「とてつもなく下劣でテキトーな魔人のようですね。僕としては、あなたのような方に教師をしていただきたくないのですが?」
「お前の意見なんか知らん。お前の感情も知らん。お前のワガママも知らん」
「……」
「覚えておけ、メガネ。俺は、他人の意見を気にしない。お前がどう思おうが知ったこっちゃない。俺は『俺がやりたいこと』か、『俺自身がやらなければいけないと思っていること』しかやらない」
と、自由気ままなことを口にするセンの視線の先で、
眼鏡ラスが、
「……ちっ……これだから魔人は……」
と、吐き捨てる。
ちなみに、ラスは、別に、魔人に詳しくはない。
『いいところの坊ちゃん』なので、『魔人(奴隷階級以外存在しない身分 )』 とかかわることがなかった。
魔人と接したことはないが、魔人差別の社会で生きてきたので、その弊害として、今の差別発言が自然と飛び出した。
それだけの話。
そんなラスに、センは、
「これも、最初に言っておくが、俺を『魔人の代表例』として捉えるのはやめておけよ。俺は、魔人の中でも、だいぶ特殊な例だ。人間の中にも、たまに、キチ○イはいるだろ?完全にイカれてしまっている変態。俺は、それだ。俺は間違いなく『頭おかしいキチ○イ』だが、それは、俺がおかしいんであって、魔人がおかしいんじゃない」




