52話 呪い。
52話 呪い。
「私に対して、不満をぶつけるのは結構。お気持ちはお察しします。しかし、この二人にあたるのはやめていただきたい。不満はすべて、俺に」
「私に命令するなよ、魔人風情が」
と、バチギレした顔で睨みつけてくるニスン。
「私に歯向かうな。私に指図するな。私に意見をするな。下等な魔人風情が……この私に――」
と、そこで、センが、
「おや? 大丈夫ですか?」
と、小首をかしげて、そう言った。
それに対して、ニスンは、
「はぁ?」
と、わけが分からないという顔をする。
そんな彼に、センは、心の中で、黒い笑みを浮かべつつ、
「いえ、血が上りすぎて血管でも切れたのか知りませんが……どうやら、頭から血が流れておられる様子。なので、大丈夫かな、と思いまして」
「は?!」
そこで、ニスンは、自分の頭に手をあてた。
そして、てのひらを確認してみると、確かに、べったりと血がついている。
「ひっ」
彼は、血に慣れていない。
なぜなら『鉄火場に出るような人生』ではなかったから。
普通に温室暮らしで、親のコネで教師になり、そのままぬくぬくと育っただけの坊ちゃん。
ゆえに、自分の体から流れる血に、途方もない恐怖を感じる。
「な、なんでっ……」
と、自分の頭から血が流れていることに慌てふためいているニスンに、
「興奮しすぎたのでは? あ、ちなみに言うまでもないことですが、疑われてもイヤなので、ハッキリ言っておきますが、私は何もしておりませんよ。ずっと、見ていたので、わかりますよね?」
「ぐっ……ち、治癒ランク2!」
回復魔法が使えるニスンは、自分の頭に回復魔法を使うが、
「な、なんで、止まらない……は?!」
回復魔法を使ったが、しかし、関係なく、
頭から血がダラダラと流れてくる。
そして、次第に、その血は黒くなっていく。
「ひぃいいっ!」
意味が分からず、パニックになるニスンに、
センは、
「ああ……これ、なんか、呪いっぽいですねぇ。なんか、心当たりあります? ニスン先生」
「あるかぁ! の、呪いだと?! ふざけるな! 私は誰にも恨まれてなどいない! 私は、品行方正に、まじめに、清く正しく生きてきたのだ! そんな私を呪うものなどいるはずがない!!」
「そうっすかぁ。まあ、でも、実際、こうして呪われていますからねぇ……人間関係ってのは、わからないものですよねぇ。どんな些細なことで恨みをかうかわからない。いやぁ、こわいこわい。呪いとまんじゅうは、本当に怖い」
「う、うう! ち、治癒ランク2! 治癒ランク2!」
必死になって、どうにかしようとしているが、
「解呪系の魔法じゃないと無理だと思いますよ。高位の治癒とかならともかく、普通の回復魔法では――」
「う、うるさぁあああい! 私に意見するなぁああああ!」
そこで、ニスンは、
「か、解呪ランク1」
純粋回復系にくらべて、解呪の魔法は、あまり得意ではないらしく、
かなりてこずっていたが、しかし、
「はぁ……はぁ……」
なんとか、頭から血があふれるという状況は脱したニスン。
ただ、血を流しすぎたのか、フラついており、
「ぐっ……だ、だめだ……ぐっ……」
『立っていられない』と認識したニスンは、
センをキっとにらみつけて、
「3組は……この廊下をまっすぐ行って左だ……あとは……勝手にいけ……私は……すこし休ませてもらう」
そう言って、ニスンは、センたちに背を向けて、どこかに消えていった。
ニスンの姿が完全に見えなくなったところで、
ジバが、センをチラ見して、
「あの呪いは、セン様が?」
「いつから呪いだと錯覚していた? ……ただの幻術だよ。ただ、『血があふれた』と本気で思いこめば、貧血の症状がでる。人間の体、脳ってのはおかしなもんだねぇ」
「幻術? 私にも、あの者の頭から血が流れる様が見えていたのですが?」




