51話 汚らわしい。
51話 汚らわしい。
(とことん教えてやるぜ……てめぇの罪を)
心の中で、そう呟いてから、
センは、あえて、弱く見える目にしてから、
「申し訳……ありませんでした……エトマス様……どうか、お許しください」
と、本気で謝罪する……というポーズを示した。
ここまで、散々、暴力を発散させて、すでに、ボルテージが鎮火しているエトマスは、
「……最初から……その態度をしめすべきだった」
と、上から声を投げかけながら、
センの頭をズカっと、踏みつけて、
「自分の立場というものを決して忘れるな」
そう言いながら、
パチンと指をならした。
限定空間が解除されて、
二人だけの世界は消え去る。
理事長室で待機していたジバとビシャの兄妹は、
ボロボロになって戻ってきたセンを見て、
ググっと沸騰した……が、
(当初、言っていた通り……絶対に、手を出すなよ。もし、手をだしたら、俺はお前らと縁を切る。俺の言葉を、安い嘘だと思うなよ。俺は言ったことは守るぞ)
と、テレパシーで、二人の心に直接釘をさした。
昨日の段階から、『この学院で、センが何をされても、絶対に手をだすな』という命令は下していた。
この命令は、絶対のものである……と釘を刺されていたし、
センの実力を知っている二人は、
エトマスの攻撃くらいでは、センが死なないことも分かっている。
なんだったら、『エトマスごときの攻撃じゃ、大したケガを負うこともない』ということも理解できている。
だからこそ、すでに狂信者めいてきている二人が、ボコボコのセンを前にして我慢することができた。
グっと我慢して動かずにいる二人に、
(いい子たちだ)
と、誉めてから、
センは、ふらつきながら、立ち上がり、
「治癒ランク3……」
ある程度の回復魔法で、
それなりに自分の体を回復させると、
「……エトマス理事長……改めまして、センエースと申します。……今後とも、よろしくお願いいたします」
「……私の学院で好き勝手なことをさせる気はない。規律をもって、厳粛に行動するように。以上」
「……かしこまりました」
★
エトマスとの挨拶を終えたセンとジバとビシャの三人は、
エトマス直属の部下の一人である教師、
2組の担任『ニスン』の案内で、
担当するクラスである3組へと向かっていた。
ニスンは、エトマス同様、かなりの差別主義者であり、
魔人である三人に対し、
「汚らわしい……」
と、自身の感情を隠そうともせずに、
眼鏡をクイっとあげながら、
「栄誉あるダソルビア魔術学院に、貴様らのような下等な魔人が足を踏み入れるなど……本来であれば、あってはいけないこと。エトマス理事の命令でなければ、貴様らの案内役など、絶対にごめんだ……まったく、不愉快」
と、どうどうと、差別意識をぶつけてくる。
そんな彼に、センは、
「いやー、すんませんねぇ。魔人でごめんなさい。産まれてすいません」
と、ヘラヘラ笑いながら、そう言った。
そんなセンに対して、
「醜い面だ……虫唾が走る。上位者に媚びるしか能のない虫けら……貴様のようなカスが私は大嫌いだ」
「あー、さーせーん」
と、ヘラヘラ笑っているセン。
そんな彼の後ろにいる二人、ジバとビシャに、向かって、
ニスンは、
「貴様らもだ。私に謝罪をしろ。貴様らのようなカスを案内させている……それが、どれだけ屈辱的な侮蔑であるか……ただしく理解し、誠心誠意、頭を下げろ」
と、そんな、激しい命令をくだされた二人は、
『センが我慢しているのだから』と、自分達も頭を下げようとした。
別に、『魔人の扱いが悪いこと』など慣れている。
だから、この程度は我慢しようと思った……
が、そこで、
センは、二人の動きを片手で制した上で、
ニスンに対して、
「私に対して、不満をぶつけるのは結構。お気持ちはお察しします。しかし、この二人にあたるのはやめていただきたい。不満はすべて、俺に」




