46話 ちゃいます。
46話 ちゃいます。
『誰かにやってほしい』と思っていたことを、完璧にやると宣言してくれた王。
兄を救い、光を示してくれた王に、
ビシャは、自分の全てを奉げると決めた。
この王に尽くすことこそが、
自分がこの世に生まれた理由だとすら思ったのだ。
「――セン様。もっと背筋を伸ばしてください。ちゃいます。そうやなくて、もっと、高みを魅せつける感じで。もっと一歩一歩に威厳を出してください。一挙手一投足に、王のオーラを込めてください。そこらの虫ですら平伏してしまうような偉大さとともにあってください。……ちゃいます。もっと、こう――」
彼女は、『信仰対象の言動を盲目的に受け入れるタイプ』ではなく、
信仰対象に『理想を押し付けるタイプの信者』だった。
『信者』と一口に言っても、色々なタイプが存在する。
そんないろいろの中でも、セン的に、一番厄介なのが彼女。
「ちゃいます。セン様。もっと、凛々しい目をしてください。今日が、あなた様の学院デビューの日。学院の学生たちに、果て無く尊きあなた様の美しさを、正しく伝えんとあかんのです。というわけで、やりなおし。はい、威厳を出して。……ちゃいます」
何度も何度も何度も、『鬼監督からの激烈NG』を出されまくったセンは、
ついにブチギレて、
「むずいてぇ! 俺の言動は、基本バグっているが、それとは関係なく、お前の要求、おそろしくむずいてぇ! 存在しない威厳は出せない!」
「そのような弱音は、尊き方にふさわしくありません。もっと美しく……ちゃいます。嘆く時すら、凛々しく……ちゃいます」
「もういい! 俺を矯正しようとするな! 無駄だから! なぜなら、俺は尊くないから! 『強さ』には多少の自信があるが、それはアホみたいに鍛えたってだけ。尊いとか尊くないとか、そんなアホな話にはならん。バキバキに仕上げてきたボディビルダーの肉体がムキムキに切れているのは当然ってだけの話。……確かに俺も『王』をしていた時期もあるが、それだって、ただ俺が『世界で一番強かった』ってだけの話だ。アホみたいに鍛えて強かった……そういうやつが代表をした方が、ただのザコがやるより、色々とスムーズにことが進むから便利だった……それだけ! 尊いとか、尊くないとか、そういう話じゃねぇ! ボディビルダーが凄いのは間違いないが、偉いわけでも、尊いわけでもねぇ! ただストイックさがバグっているってだけの話! 俺は、ただの『出力が大きい暴力装置』! それ以上でもそれ以下でもない! 俺が王をしていたのは、俺に何かしら、カリスマとか、王の威厳とか、そういうのがあったからじゃない! わかったか?! わかったら、二度と、俺に尊さがどうとか求めるなよ!」
「今のは少しだけよかったですよ、セン様。美しい発言でした」
「なにがぁ?! もう分からん!! お前、ムズい!」
「しかし、もっと言い方を変えていただきたい。王という地位にあぐらをかくことなく、『果て無き高み』にいたって、なお、己はふもとにいると、自身の魂を律し続ける稀有な姿勢……その『永遠の探究者を地でいくスタンス』は間違いなく美しいんやけど、セリフが子供っぽすぎます。もっと、果て無い高みから降り注ぐように、重たい言葉で――」
「もういい、もういい、もういい! 今日は、学院デビューの日で、色々とやることが多いんだ! 長ったらしい説教は後にしてくれ」
「かしこまりました。それでは、またあとで、じっくりと話し合うことにいたしましょう。ちなみに、これは、その場しのぎの口約束やなく、絶対の契約ですから、その辺、誤解なきよう」




