44話 助けなきゃよかった。
44話 助けなきゃよかった。
「王には王の在り方っちゅうもんがあるんや。威厳と風格が大事なんや。その辺、わかっとりますか、セン様」
「いや、わからないです……ごめんなさい」
しゅんとなるセンに、
ビシャは、真っ赤な顔で、
「シャンとしてください、セン様! あなたは、この世で最も尊い存在なんですよ! 一番偉い人なんやから、一番偉いふるまいをしてください!」
「あんまりよく知らんけど、たぶん、『最も尊い存在』は、だいぶ年下の少女に『しゃんとしろ』と怒られたりしないと思う。だから、俺は最も尊い存在ではない。証明終了……謎は全てとけた。真実はいつも一つ。バッチャの名にかけて――」
「セン様!」
厳しい口調でしかられたセンは、彼女の兄であるジバに目線を送り、
「お前の妹が、こんなにうるさいわけがない件……ちょっとどうにかしてくれません?」
「はい? えっと、申し訳ありません。セン様、どういう意味でしょうか?」
「一言で言えば、『ずっと、めっちゃ怒られてしんどいから、黙らせてほしいんですけど』ってこと。このままだと、手が出てしまいそうなんで、赤の他人の拳が炸裂する前に、実の兄の言葉でたしなめてほしいんでありんす」
「……申し訳ありません、セン様……私では、妹を御することはできません。それに、御する必要もないかと存じます。言い方が強すぎるため、その点に関しては、あとで、言い聞かせますが……まあ、言い聞かせたところで無駄なのですが……それはともかく……実際のところ、セン様は、『尊い立場にあられる』というのに、言動が奇抜すぎるところがあると思います。私自身も『尊い方には、それなりの在り方というのがある』と思います。これは、決して妹に迎合しているわけではなく、私自身の意見です」
「……助けなきゃよかったなぁ……この兄妹……てか、別に俺が助けなくても、こいつらなら、なんとかなった気がする」
などと、後悔している間も、ビシャは、ずっと、センに注意をし続けている。
彼女の言葉は一貫している。
『美しい者は、美しい者として生きなさい』
彼女が、こんなにもセンに『美しさ』を求めるのは、
彼女も、ジバと同じく、センの高みを魅せつけられたから。
限定空間の中で魅せられた、命の最果て……
神の領域と断ずるにいささかの躊躇も必要としない孤高。
それを魅せつけられ、その上で、兄を救ってもらい、自分も救われたと知ったビシャは、センに心酔し、信仰するようになった。
彼女は、ずっと、過酷な状況にある兄を救いたいと思っていた。
どうにか、兄を救うために、実は、裏で色々と動いていたりもした。
彼女は、ただの『守られるお姫様』ではない。
対外的には『兄に頼るしかない弱い妹』を演じながら、しかし、その裏で、
※※ビシャは、ひそかに、邪教団ゼノの『秘密工作員』として働いていた。
『ゼノ』に所属し、カドヒトの下で、必死になって腕を磨いた。
兄を救い、この『魔人が差別されるクソみたいな世界』を変えようと決死の努力を続けていた。
その結果、ビシャは、ジバ以上の実力を身に着け、有力者ぞろいのゼノの中でも、それなりの地位に到っていた。
もともと『爆裂な才能』があり、『兄を救い世界を変える』という目的があり、さらには、『ゼノという有益な組織に入る事』も出来た彼女は、爆発的に成長した。
そんな彼女の現在の存在値は73。
兄を救うために頑張った結果、彼女は、『兄より優れた妹』になった。
というか、もはや、『兄より優れた』とかいう次元ではなく、
十七眷属の中に混じったとしても、上から3番目ぐらいの実力者になった。
タイマンでビシャを殺せるのは、十七眷属の中だと、主席のラーズと、次席のタンピマスぐらい。
※※ちなみに、『ゼノから支給されている高位のフェイクオーラが自動展開する指輪』を身に着けているため、その実力が周囲にバレることはなかった。




