43話 では、どうする?
43話 では、どうする?
(半年後は、それが5人に増え、2年後には20人、5年後にはその10倍になっている……ということも十分にありえる……)
自分の大事な学院で、ゴキブリのように魔人が増えていく未来を想像したエトマスは、
(うぇええ……)
と、吐きそうな気分になった。
彼女の魔人に対する差別思想は、ファッションではなく本物。
魔人という種は『能力的にはともかく、人間的には劣った存在であり、また、汚らわしい存在である』と、エトマスは、割と本気で思っている。
彼女からすれば、魔人はゴキブリ。
純粋な害悪。
殲滅してしまった方がよい……と、そのレベルで考えている。
もし、『魔人を一掃できる権利』を与えられたならば、エトマスは、喜んで、『この世に存在する魔人を収容所に集めて、毒ガスを放ち、一斉に駆除する』ことだろう。
……この手の『強い差別思想』は、上位者からの命令一つで意識改革できるようなものではない。
そこで、タンピマスがタメ息交じりに、
「……学院の教師という栄誉ある職をあたえ……オンドリュー(十七眷属)の配下の魔人を奪い取り、さらに、その魔人を、生徒として入学させる……本当に、もう、やりたい放題じゃのう……よいのか、エトマス。このまま、好き放題やらせて。ぬしの大事な学院が、好き放題荒らされて……それでよいのか?」
「いいわけが……ありません」
「では、方法を考えないといかんのう? どうする?」
「……っ」
エトマスは、色々な事案を、『自分の中の天秤』 にのせて考えた。
頭の中で、『鋭利で多角的な考え』が浮かんでは消えて……
(……やはり、どうしても、正面切って、クロッカに逆らうことは出来ない……しかし、このまま、黙って、全てを受け入れていては、私の学院が、壊滅するまで、穢され続けるであろう……対処をしないといけない……となると……実際のところ、そのセンとかいうゴキブリを、『適切に処理』にするのが最善か……)
と、自分の中で、ハッキリとした結論を出したエトマスは、
ギリっと奥歯をかみしめて、自分自身の覚悟を確認すると、
(……直接手を下すことは出来ない……となると、自滅させるのがベスト……問題行動を起こさせて、それを理由に追い出す……あるいは、陰湿にイジメて、自己都合退職に追い込む……このどちらか……あるいは、その両方……さて、どうするか……)
★
なんだかんだ、手続き等、色々と鬱陶しかったが、
そういう諸々を、全て、完璧に処理して、
ついに、センは、デビューの日を迎える。
「ここがダソルビア魔術学院か……ふむ……風が騒がしいな」
などと、意味不明なことをつぶやいた直後、
続けて、
「この風、少し泣いている……急ごう……風が止む前に……」
と、意味深ではあるものの、一ミリも中身がない戯言を口にする。
そんな彼の後ろを歩いている二人の魔人兄妹。
その妹の方が、
「セン様……今の独り言は、なんなん?」
と、普通に疑問符をぶつけてきた。
当然の疑問をぶつけられたセンは、
「ビシャよ、覚えておくがいい。俺の発言は、すべてシュタイン○ゲートだ」
「シュタ……はい? なんですの、それ」
「意味は……特にない」
「……セン様。あなた様は、この世界で最も尊い存在なんやから、最も尊い者としての風格と威厳を大事にしてほしいんやけど」
「俺に威厳を求めるなど……ふっ、この世で最も愚かな要求の一つだな。ビシャよ、覚えておくがいい。俺は――」
「言い訳せんといてください、セン様」
強い口調でセンをたしなめるビシャに、
その兄であるジバが、
「ビシャ……セン様に失礼だ。もう少し、発言を控えなさい」
「兄さんは、セン様を甘やかしすぎや。そんなんやから、セン様が、いっこうに改心せんのや。セン様は、精神的にも肉体的にも、実質的に、世界の王なんやで。それやのに、その自覚がなさすぎる。王には王の在り方っちゅうもんがあるんや。威厳と風格が大事なんや。その辺、わかっとりますか、セン様」




