41話 とことんイジメぬいてやりなさい。
41話 とことんイジメぬいてやりなさい。
「下賤の身である我らに向けられた、そのお優しさ……尊い御忠告を賜ったこと、感謝いたしますぞ、クロッカ様。ほっほっほ」
『じゃ、よろしく――』
そこで、通信の魔法は切れた。
「……ちっ……」
完全に相手の反応が消えたところで、あえて大きな音をたてながら、舌を打つタンピマス。
クロッカの、自分に対する『かなり雑な対応』に対して、軽く怒りを覚えながらも、しかし、決して、それを当人に対しては向けない、ある意味での『したたかさ』を持っているのが、タンピマスの特徴の一つ。
「……ふぅうう……」
タンピマスは、イライラ顔で、深いため息をつく。
必死に、どうにか、自分の心を収めようと、呼吸に集中する。
クロッカと話したあとは、だいたい、いつも、こんな顔になる。
……先ほどまでの『クロッカと話している時』とはまったく違う『歯噛みした顔』になると、
メイピマスとエトマス、それぞれに、『何も言うな』という旨の軽い視線をおくってから、
「あのバカ娘……『自分の犬』に『変なちょっかいをかけないように』と、釘を刺してきおった。どうやら、よほど大事な犬らしい。いったい、何をそんなに気にいっておるのか知らんが……本当に鬱陶しい」
強めに『強者の威厳』を出してくるタンピマスに、
エトマスが、
「っふ、不愉快な話ですね! あんな、こ、小娘に、いいように使われて! 龍神族でさえなければ、叩きのめして、力の差を分からせてやるというのに!」
その言葉に、メイピマスが、
小バカにするような目を向けてきて、
「……エトマス、あなたじゃどうあがいても無理でしょ。クロッカ様は、『存在値150』という、長い龍神族の歴史の中でも、最高位の実力を持った超天才児よ。性根は終わっているけれど、潜在能力は間違いなく世界最強格」
「いや、ですから、『みんなで』ですよ、メイピマス様。みんなで、力を合わせて、生意気な子供に対して、目上の者に対する礼儀を教えようと……そういう話で……」
と、あたふたしているエトマスに、
タンピマスが、地獄の底から響くような、とても低い声で、
「……エトマス……」
「え、あ、はい! なんでしょう、タンピマス様!」
「噂の犬……ぬしに出来る最大限の最良の方法で……イジメぬいてやりなさい」
「……え、いや、あの……今、クロッカ様から『ちょっかいをかけるな』と釘を刺されたばかりで……」
「だから、言っておるじゃろう。最大限、『最良』の方法でイジメぬけ、と。人の話を聞いておらんのか、おろかものめ」
「……」
『おろかもの』扱いを受けたことで、
エトマスの胸の中に、黒いモヤが産まれる。
腹の中では、
(この糞ババァ……日和見主義で、下には偉そうにするが、上には弱いコウモリ……姉も妹も、どっちもクソの、超クソババア姉妹……相手の権力次第で、ころころと態度をかえる、その芯の薄さ……大嫌いだ……死ね死ね死ね……)
と、『相手によって態度を変えるタンピマス&メイピマス姉妹』の『性根の腐り方』に
文句をつけているエトマスだが、彼女だって、大差ない性質をもっている。
今日は立場的に一番下なので、このような、『損な役回り』をしているが、学院で働い
ている時は、常に、『絶対の理事』として、とことん横柄な態度で、周囲をアゴで使い潰
している。
……エトマスが、腹の中で呪詛を吐いている中、
タンピマスが、とうとうと、
「わかりやすいパワハラなどを行えば、クロッカが、ごちゃごちゃ言ってくるじゃろう。だから、そこは、ほれ……巧妙にというか……みなまで言わずともわかるであろう」
と、強い目で、忖度を強制させられたエトマスは、
「は……はい……わかります」
と、言わざるをえなかった。




