40話 鬱陶しいクソババア。
40話 鬱陶しいクソババア。
(仮に、空きがなくとも、一人か二人をねじ込むだけなら書類一枚に判を押すだけで、簡単に対応できる。『実務的に簡易』な『龍神族からの命令』を、差別的な感情だけで忌避するなど……それは、もはや、謀反と取られてもおかしくはない)
今、エトマスが考えたことを、メイピマスも、当然理解した上で、メイピマスは、先ほどの『クロッカの命令に反しろ』というアドバイスをした。
つまりは、『無理なことを言って困らせているだけ』である。
メイピマスには、こういう、『次女らしい陰湿さ』というか、『根暗なパワハラ気質』があって、
グループ最年少のエトマスは、常に、この鬱陶しさと向き合う羽目になる。
(鬱陶しいクソババア……)
と、心の中で思いながらも、しかし、それでも、表面上ではニコニコするエトマス。
エトマスを軽くイジメて、少し気をよくしたメイピマスが、いい笑顔で、ホホホと笑いながら、
「それにしても、クロッカ様のワガママには、いつも、苦労させられる……上の者のワガママは、下の者にとっては災害であると理解してもらいたいわ。ねぇ、姉様」
「あの小娘には、ちぃと、お灸を据えてやらねばならぬのう」
ボソっと、そう言ったタンピマスに、
エトマスが、苦笑いで、
「た、タンピマス様……さすがに、龍神族のクロッカ様を、小娘あつかいというのは……」
「……ふん。わらわは、あの小娘の育ての親じゃ。娘のワガママをたしなめるのは、むしろ、親の務めであろう。今度、会った時には、ガツンと――」
と、鼻息荒く、そう言っている途中で、
「――ん……っ」
どうやら、
魔法の通信が、タンピマスの頭の中に届いた模様。
テレパシーの魔法を使ってきた相手は……
「……っ……こ、これはこれは、クロッカ様。どうなさったのですかな?」
先ほどまでの『大物然とした雰囲気』から一変。
取引先からの電話を受けたサラリーマンもかくやという勢いで腰を低くするタンピマス。
「わらわに何かご用命でしょうか? クロッカ様の忠実な犬であるわらわは、どのような命令であろうと、即座に――」
『今度、私の【直属の犬】が、魔術学院で教師をすることになったのだけれど、その話は聞いているかしら?』
「は、はい……その件でしたら、エトマスから聞いておりまする。魔人を教職につけるなど、さすが、クロッカ様。発想が、常に突飛でいらっしゃる。その奇抜な大胆さこそが、世界に新しい風を――」
『魔人が学院の教師をすることに関して、ごちゃごちゃ言ってくるバカがいるから、そういうのを、あんたの方で黙らせてくれるかしら? 確か、学院理事のエトマスって、あなたのところの……マス会だったっけ? そこに所属しているのよね』
「はい。おっしゃるとおりでございます」
『魔人差別主義者のエトマス理事が、ウチの犬に対して嫌悪感をみせるのは目に見えているわ。分かっているとは思うけれど、あの犬は、この私、タンタル・ロプティアス・クロッカの犬であると、ちゃんと釘をさしておいて。わかった?』
「ははー、かしこまりました」
『ちなみに、誤解されたくないから言っておくけど……これは、エトマス理事のために言っているのよ。オンドリューの件、聞いているわよね?』
「もちろん。随分と気性のあらい犬を飼っておられるのですね、クロッカ様。本当に、あなた様は、特殊な趣味をお持ちで。ほっほっほ。まあ、そこがあなた様の魅力でもあるわけですが」
『気性が荒いどころじゃないわ。ウチの犬は病気持ちの狂犬なの。本当に、とてつもなく強い瘴気を内包した、頭のおかしい、猛犬であり闘犬。噛まれたくないなら、妙に絡んだりしない方がいいという忠告』
「下賤の身である我らに向けられた、そのお優しさ……尊い御忠告を賜ったこと、感謝いたしますぞ、クロッカ様。ほっほっほ」
『じゃ、よろしく――』
そこで、通信の魔法は切れた。




