39話 上っ面の地獄。
39話 上っ面の地獄。
「もちろん、知っております。情けない男。本当に、男はダメですね。十七眷属は、やはり、わたくしたち、マス会が引っ張っていかなくてはいけません」
エトマスのゴマすりにかぶせるように、
メイピマスも、
「十七眷属のまとめ役も、本来であれば、『姉様』 がなされるべき……だというのに、ラーズのような、生意気なだけの無能にいいように幅をきかせられて……本当に悔しいわ」
ゴリゴリとゴマをすっていく。
この三人の関係性は単純で明快。
『十七眷属次席』であり『圧倒的強者』のタンピマスと、
その金魚のフンであるエトマスとメイピマス。
メイピマスは、実際に、タンピマスの妹(血族)だが、
エトマスは、『名前にマスが入っているので気に入られた』というだけの真っ赤な他人。
表面上、この三人は、常に仲良くつるんでいるように見えるが、
腹の中では、それぞれ、お互いが、お互いに対して、色々と抱えている。
女子同士とはそういうもの。
男同士でも、そう変わらないが。
……『相手の全てが大好き』で、何もかも受け入れることができる『完璧な親友』同士……
そんなものは、どの世界の、どんな人間関係においてもありえない。
……というか、もっと踏み込んだことを言うと、根本の話、十数人程度の閉じられた規模のグループの場合、『全員仲が悪い』というのは、『ありえない話でもない』のかもしれない。
ちなみに言っておくと、
タンピマスは、二人のことを『そんなに使えない道具。面倒見てやっている』と思っており、
メイピマスは、『鬱陶しい姉、早く死ね。エトマスは、絶対に私に逆らうな』と思っており、
エトマスは、二人のことを『クソ鬱陶しい姉妹。嫌いだが役に立つのも事実』と思っている。
……ようするに、表面上は『仲良くやっている』ように見えて、実のところ、すげぇ仲が悪いグループである。
「……そういえば……」
……オンドリューに対する悪口も言い尽くしたところで、
タンピマスが、
「エトマス……ぬしのところの魔術学院に、ウワサの犬が、教師として入ってくるらしいのう」
「はい、タンピマス様。どうやら、そのようで。魔人の教師などありえないため、断固拒否したいところですが……クロッカ様の命令ですので、退けるわけにもいかず……」
心底しんどそうな顔をしているエトマスを尻目に、
メイピマスが、
「なにを言っているのよ、エトマス。十七眷属には大きな権力が与えられていて、その権力の中には、『命令に対する反問権』や『反論権』だけではなく、『龍神族の方々に異議を唱えられる反対権』も含まれているのよ。本当に嫌なことは、イヤだとハッキリ言わないと、いいように使われてしまうわ。これは、あなたのためを思って言っているのよ、わかっていると思うけれど」
などと言ってきたので、
エトマスは、表面上は、
「ありがとうございます、メイピマス様。常に私に適切なアドバイスをしてくださって」
と、感謝を告げて、頭を下げているが、
しかし、心の中では、
(自分は、一度も、『上』に歯向かったことがないくせに。『自分より立場が低い者』の前では、いつも、そうやって息巻いて……まったく、不愉快……『弱者の前でしか粋がることしかできない小物』の言葉ほど薄っぺらいものはない……貴様など、所詮は、タンピマスの金魚のフン。そんな『ゴミ以下のカス』の分際で、偉そうな口をたたくな……)
バチギレ顔で、イライラとしていた。
そのまま続けて、心の中で、
(確かに、十七眷属は、龍神族に対して異議を申し立てることができる権利をもっているが、それを行使できるのは『よっぽどの無理難題を理不尽に言い渡された時』か、あるいは『相手(龍神族側)が聞く耳を持っている時』だけ……今回のクロッカのワガママは、確かに『非常識』ではあるが、魔人を教師にするだけなら、無理難題と呼べるほどではない。……ちょうど、『3組』の担任の空きもあるし……仮に、空きがなくとも、一人か二人をねじ込むだけなら書類一枚に判を押すだけで、簡単に対応できる。『実務的に簡易』な『龍神族からの命令』を、差別的な感情だけで忌避するなど……それは、もはや、謀反と取られてもおかしくはない)




