232話 いつか、本当の俺を知った時に、セラフは絶望するだろう。
232話 いつか、本当の俺を知った時に、セラフは絶望するだろう。
「……もっと直接的な事を言わせてもらえるのであれば……『クロッカを女王にする』などという、迂遠な方法はとらず、問答無用で即座にカス共を一掃して、頂点に立っていただきたいです。……望んでいただければ、すぐさま、この世界を制圧し、根こそぎ、尊きセン様に献上させていただきます。というか、献上させていただきたい。どうか、この世界を制圧してこいとご命令ください。偉大なる父よ」
「前にも説明したろうが。俺は王になる気はねぇ。この件に関して、議論する気も、譲る気も、折れる気もない。黙って俺の意向に従え」
「……」
セラフは、思いっきり不満な顔をしつつも、
「かしこまりました。尊き王の命令は絶対ですので……ここは、黙って下がらせていただきます。しかし、私は諦めません。王にふさわしいのは、この世で最も高潔で尊き無上の超越者であらせられる、あなた様ただおひとり」
「お前の中だけで膨らんでいる『妄想の俺』、えぐいことになってんな。一から十まで丁寧に訂正したいところだが……今、謎に脳が沸騰している状態だから、聞く耳を持たないだろうなぁ。いつか、冷静になって、『俺の実体』を正しく受け止めることができた時、今のような勘違いをしていたことを激しく後悔し、死にたくなるだろうぜ」
『いつか、本当の俺を知った時に、セラフは絶望するだろう』……とセンは割とガチ目に思っているが、しかし、この先、10年経とうと、100年経とうと、1000年経とうと、1万年経とうと、200億年経とうと、200兆年経とうと、
――セラフの中の『センエース像』が崩れることはない。
むしろ、時間の経過と共に、彼女の中の『センエース』は、どんどん大きくなっていく。
カンストだとか、メンヘラだとか、そんな安い言葉ではおさまらない狂愛で、セラフは、センエースを包み込むようになっていく。
遠い未来で、セラフは想う。
『とてつもなく深い絶望の果てに、私は産まれた。全てを憎み、全てを忌み 全てを恨み、全てを終わらせたいと願った。しかし、そんな過去があったからこそ、私は、偉大な王に出会えた。全ての命を照らす光。この上なく尊き絶対なる支配者。この世で最も高潔な神。私は、神と共に舞う剣。私は、常に、特等席で、神の偉業を拝見できる。これほど贅沢なことはない。私は永遠に、偉大な王のそばにいる。尊き神の側から離れない。絶対に』
すでに、相当なメンヘラ感を発揮しているセラフだが、
しかし、彼女のメンヘラ指数は、『今』が『最底辺』である。
彼女のメンヘラは、ここから始まる。
正確には『まだ始まってすらいない』と言えるだろう。
そんな彼女の『異常性』を、
まったく正しく認識できていないセンは、
ため息交じりに、
「マジで、こういう勘違いは、勘弁してほしいぜ。俺の実体なんざ『友達ゼロで童貞のファントムトーカー』だぜ。普通にエグいだろ。王に値するとかしないとか、そんな次元でモノを語っていい男じゃねぇ」
などと、ぶつぶつ文句を口にする。
――ここまでのセンのセリフを受けて、パーリナンは、
センエースという『生命』の『哲学』や『思想』の『支柱』が理解できた気になった。
センエースをこんな短時間で理解するなど無理な話だが、
『分かった気』になら、誰だってなれる。
分かった気になったパーリナンは、センに、
「一つ、確認しておきたいのですが……センエース様。あなた様は、この世界をどうするおつもりで? できれば、具体的に聞いておきたい」
その質問に、センは、ちょっとだけ間をおいて考えた。
言葉に詰まったのではなく、整理しただけ。
やりたいこと、成すべきことは、だいたい固まっている。
だから、センは、つらつらと、
「……とりあえず、龍神族は基本殺す方向でいく」




