230話 この上なく尊きセン様。
230話 この上なく尊きセン様。
(帝王学を、よく理解している。優秀な側近のことはできるだけ優遇すべき。……あのアンデッドは、強大な力を持っている。この世界で生まれた怨念の集合体……なるほど、強大で当然。強大な力を持った配下から『絶対の信頼』を勝ちとること。それこそが、盤石な支配体制の第一歩。他の誰にどれだけ嫌われようと、幹部からは愛されていなければ、巨大組織の運営は出来ない)
センエースの行動は、
パーリナンからすれば、全て、理にかなっている。
パーリナンの哲学と、センエースの哲学は、まったく同じではないが、
どこかで共通している部分がある。
だから、パーリナンは、どんどん、センエースに傾倒していく。
『この男に任せておけば大丈夫だ』と心の底から信じることができるようになっていく。
そんな風に、パーリナンが、どんどんセンエースを信頼していっていると、
そこで、
それまでずっと黙って様子をうかがっていたセラフが、
「この上なく尊きセン様……」
と、センの袖を軽くつまみながら、名前を呼んだ。
センは、セラフに視線を向けて、
「俺は尊くないと言っているのに……まったく……で、なんだ?」
そこで、セラフは、気絶しているヒークルを指差し、
「このカス、どうなさるおつもりですか? まだ殺さないという話でしたが……それは、ここから、しっかりと拷問してから、殺すということでしょうか?」
「ああ、まさにその通りだ。こいつには、この世の地獄を味わってもらう。こいつは、終わっている。……『本気で、矯正する気がある』ってんなら、チャンスを与えてやってもいいんだが……まあ、こいつは変わらないだろう。……一応、とことん苦しめてから、最後の最後に、矯正する気があるか聞いてやるつもりではあるが……ツバを吐きかけてくるだけだろうぜ」
「チャンスを与える必要などないかと存じます。この男が、あの街で、魔人に対してやってきたことを調べましたが……」
「酷かったんだろ? 知っているさ。モノにあたるタイプの差別意識バリバリな上級国民なんてそんなもんさ。だが、有能であることは事実。こいつは努力ができる稀有な人材。だから、チャンスだけはやる。どうせつかめないだろうが……最低限の可能性はくれてやる。これは温情じゃない。レアな人材は、より多くのチャンスを得られるという、ただの不公平さ」
「……」
「セラフ、お前だって不公平を背負っている。お前は、強烈な力を持っている。だから、俺の側にいられる。もし、そうじゃなかったら、俺はお前を側におかない。助けてやっただろうし、居場所を与えてやったとは思うが……俺の剣になるチャンスを与えてやることはなかった。お前だって、『レアな人材だったから』という理由で、不公平の甘い汁を吸っている。『自分だけは特権を得られて、相手にはやらない』って考え方は好きじゃないぜ。不公平は、ある意味で平等だから許容されるべきだが……ただの理不尽は許されねぇ。この辺の線引きは大事だ」
センは、基本的に、アホな戯言ばかりを口にするが、
『自分の配下に、本気で教えを説く時』には、
いつもの病気が、ほんの少しだけなりをひそめる。
「ま、色々言ったが……とりあえず、こいつは拷問する。それもただの拷問じゃない。これは、心を摘む闘い」
そう言いながら、センは、
両手に魔力を集めて、
ヒークルにじっくりと、ドリップコーヒーのように、ジワジワと注いでいく。
ちなみに、現在使っている魔法は、幻影邪眼ランク20。
ヒークルに、重たい呪いをぶちこんでいる。
無詠唱で使っているので、『今センがどれだけ異常な魔法を使っているか』を、パーリナンやカイがデジタルに理解することはない。




