224話 カモン、セラフ。
224話 カモノ、セラフ。
「……」
「本格的な自己紹介は、もっと後にするつもりだったんだが……もう、ここで済ませちまうことにするぜ。俺だけじゃなく、俺の家族も紹介させてもらう」
そう言いながら、センは、指をパチンと鳴らし、
己の真横に『次元の裂け目』をつくりながら、
「カモン、セラフ。挨拶の時間だ」
その命令に従い、
セラフが、次元の裂け目から出現する。
「ああ……尊き王よ。私を、家族とおっしゃってくださるなんて……」
「そういう、湿度高い感じのアレコレはいいから、簡単に自己紹介してくれ」
命令を受けると、
セラフは、たおやかに、胸を張り、
「この上なく尊き王センエース様に絶対の忠誠を誓う剣。セラフィムスパーダと申します」
堂々と、自己紹介を果たす。
正直、セラフの挨拶など、
パーリナンとカイの耳には入っていない。
二人とも、ブルブルと、震え、おののくばかり。
数秒の動揺を経て、
パーリナンが、一度、ゴクっとツバを飲んでから、
「……この……アンデッドは……あなたの配下なのか……センエース」
「そうじゃないって言ったら信じる? この状況で、その嘘を飲み込めるだけの気概がお前におありでありんす?」
「……」
センの発言のウザさにイラつく余裕もなかった。
パーリナンは、もう一度、ツバを飲んでから、
「つまり……このアンデッドを、街に差し向けたのは……センエース……あなたということか」
「違うよ。そんな悪いことするわけないじゃん。俺、ご覧の通りの聖人君子よ。善行しかしないでお馴染みの優しさの塊。慈愛という概念の擬人化。そうだろう、セラフ。俺、悪い事とかしないよな?」
「もちろんでございます。あなた様は、果て無き慈愛に溢れた、この世界で最も尊き人。全ての命から、傅かれるべき、最上の――」
「もういい、もういい。セラフさん……君に話を振った俺が間違っていた。そうじゃない、そうじゃないんだよ。ここでは、俺のヤバさを語ってくれないと、話が繋がらないんだよ。ギャグとして成立しないんだ。もっと、こう、なんていうかなぁ……シニカルで、ビビッドで、けれど、どこか、ケミカルでパステルで……みたいな、そんなリアクションを、俺は求めているんだよ。わかるかな?」
「え、いや、えっと……」
おそろしく難しいことを要求されて、ただただ困惑するセラフ。
センエースのファントムトークに『追いファントム』をかぶせることができるほど、セラフのユーモアセンスは尖っていない。
そんな二人の視線の先で、
パーリナンが、
「……センエース……『あなたとアンデッドがグルだ』ということは、絶対にバレてはいけない謀略のはず。おそらく、その鬼手は、クロッカ様が革命を成すために必要な最大級の布石。……それほどの重要な秘密をバラしたということは……私もカイも……ここで死ぬということだな……」
覚悟の決まった顔で、そうつぶやく。
『ここからどうにか逃げてガリオに、このことをバラす』……という道も、勿論考えたが、しかし、センエースとセラフ、両方から逃げ切るのは、絶対に不可能だと、諦めた。
「センエース……私は死にたくない。……どうか……助けてくれないか。もし、望むのであれば、クロッカ様に忠誠を誓う。私は、十七眷属候補生の一人。使えるコマだ。殺すのではなく、どうか、活用してほしい……どうか……」
と、そんな風に、まっすぐ命乞いをしてくるパーリナンに、
センは、
「なかなか、クールな提案だ。俺がまともだったら、話を聞いていたかもな。ところがどっこい、現実は小説より奇なり。イカれ散らかしている俺は、お前のまともな提案を前に、こんな一手で応える。……限定空間ランク9」




