222話 魔人は人間のオモチャでいい。
222話 魔人は人間のオモチャでいい。
ガォオオオオっと、力強く吠えるヒークル。
それに対し、センは、目に力を込めて、
「理不尽な暴行を受けたので、『皮肉』で『抵抗の意志』を示しただけでしょ。完全無抵抗だと、被害が拡大する一方なんでね。イジメってのはそういうもの。……で、本来であれば、罰を受けるのは、理不尽な暴行を働いたそっち側ですが、立場を考慮して、こうして――」
と、そんな風に『合理』を口にするセンに、
ヒークルは、
「だまれぇええええ! いい加減、やかましぃいいい! ごちゃごちゃ、ごちゃごちゃと、どうでもいいことばかり、囀りやがってぇえええ! 魔人の分際で、人間のような口をたたくなぁああああ!」
癇癪を起して叫ぶ。
そのままの勢いで、カイを殴ろうとしたので、
また、センが止める。
ヒークルは、バチギレを加速させて、
センに、
「出来の悪い家畜がぁあああ! 人間様に上等な口をたたくな! 貴様ら魔人は黙って、人間様のオモチャになっていればいいんだぁあああ!!」
そう叫ぶと、
センに背を向けて、『街』の方へと歩いていく。
その背中に、センは、
「ヒークル様、どちらに?」
「さっきも言っただろう! Ⅾ地区の魔人どもを八つ裂きにする! これまでは、多少、道具として価値があるから、温情で生かしてやっていたが、もう我慢ならん! とことん、凌辱し、徹底的に破壊し尽くしてから、殺す! そして、その死体を、貴様に食わせる!」
怒りに任せて、エグいことを叫んでいるヒークル。
そこで、ヒークルは、通信の魔法を使い、
街に残っている一般配下に命令を下す。
「聞こえるか、リバーディ。今すぐ、Ⅾ地区の連中を集めて――」
と、そこまで言ったところで、
「がふっ……」
ヒークルは真っ赤な血を吐きだす。
目線を下に向けると、自分の胸部から血があふれていた。
意味が分からないまま……ヒークルは気絶して、力なく、グラリとその場に倒れこむ。
そんなヒークルの背後では、
センが、『ドクドクと脈うつ心臓』を片手に、冷たい目で、ヒークルを見下ろしていた。
ゴミを見る目で、ヒークルを見下したまま、
ヒークルが使った通信魔法を乗っ取り、
声音も、ヒークルのものに変えて、
「リバーディ、聞こえるか」
『はい、あの、ヒークル様、どうしたんですか? 今――』
「タンが絡んだだけだ。別に大したコトじゃない」
『そ、そうでしたか。それで、Ⅾ地区の連中をどうしろと?』
「あのクソアンデッドは、どうにか追い返したんだが、まだ殺せていない。今の戦力であいつを殺しきるのは極めて難しい。というわけで、対アンデッド用の道具を増やしたいから、特別選抜試験を行う。存在値が高いやつを根こそぎ、噴水広場にでも、かき集めておけ」
『はっ! かしこまりました!』
そこで、通信を切ったセンは、
まだ、手の中で脈打っている心臓を見つめながら、
「あーあ、やっちゃった……ヒークルはまだ殺しちゃダメなのに……まあ、まだ、この状態なら、蘇生可能だから、でかい失敗ってわけでもないけど」
などと、ぽつりとつぶやきつつ、
抜き取ったヒークルの心臓を、ヒークルの胸部へと戻していく。
だいぶ猟奇的な光景。
そのまま、センは、
「欠損治癒ランク11」
えげつないほど高位の治癒魔法で、ヒークルの蘇生を試みる。
そんなセンの一連をずっと見ていたパーリナンが、
クラクラしながら、
(ランク11? ランク11って、どういうことだ?)
理解ができない。
というか、脳が、理解を拒絶している感じ。
(現状における世界最強の魔法使いはクロッカ様だが……そのクロッカ様ですら、使える魔法は9が限界のはず。9だって異常。神の領域。だというのに……11? 11だと? そんなふざけた話、あるはずがない……これは夢か? そうだな、夢だろう。そうでなければ、魔人が、ヒークルの心臓を抜き取るなどありえない……ありえない……ありえない……)




