219話 十七眷属の大半はクロッカをナメている。
219話 十七眷属の大半はクロッカをナメている。
(だから、『支配権を拡大させるための革命』を起こすためには、道具を選んでいる余裕がない。薄汚れた魔人だろうと関係なく、『エース』として、手札に加えるしかなかった。その思惑……納得は出来るが、しかし、情けない話じゃないか、クロッカ様よ。尊き龍神族の一人ともあろう御方が、魔人を切り札に据えるなどと。『様』をつけて呼ばれるに値する器とは思えんね)
十七眷属に属する大半は、クロッカのことを、この感じで、ナメ腐っている。
ヒークルだけが、クロッカのことを特別ナメているのではなく、ほぼ全員が、『クロッカはなんの権力もない、ワガママなだけのクソガキ』と認知している。
(……このセンエースという犬が、そこそこ有能なのは認める。確かに、スペックはそれなりだ。胆力、魔力、気力、全てが、超人の域に達していると認めよう。……だが、魔人だ。たとえ、どれだけ、質が高かろうと、所詮は魔人。道具として使い潰すならともかく、『懐刀として重用する』など、もってのほか。程度が知れる。品格が足りない)
頭の中で、クロッカを蔑むことで、
『セラフにボコられて逃げようとした自分』というのを、
記憶の隅に追いやろうとしている。
――プライドの高い人間が、恥をかいた時によくやる心理。
己のみっともなさと向き合う勇気がなくて、むりやり視点を別に移す。
他者を攻撃することで、自分を守ろうとする。
実際には逃げていないが、『逃げようとした』ということを恥だと捉える。
保身を『恥』だと認識し、平常時では、保身を忌避しつつも、
『土壇場・極限状態・命の鉄火場』では、
問答無用で『己の身の安全』を最優先させる。
この辺の心理に関して言えば、決して、異常とは言えない。
ただの弱い人間。
それが、ヒークル。
どこにでもいる、普通の男。
――もし、彼が一般人だったなら、それでもなんらかまわない。
自己愛だけの脆弱さにまみれようと別にいい。
ただ、ヒークルは、『領主』の立場にある。
だから、『ヒークルは醜い』という評価になっても仕方がない。
――『むき出しの脆弱さ』を『醜悪』と評価されたくないのであれば、『人の上』に立ってはいけない。
いまだ、頭を踏まれ続けているセンは、
そのままの体勢で、ヒークルに、
「そろそろ、足を離してくれませんか? 誤解があるようなので、言っておきますが、俺、ヒークル様と違って、業界の人間じゃないんで、頭を踏まれるのはご褒美にはならないんですよ」
「あ? 何を言っているんだ、貴様。意味が分からんのだが」
「だから、俺は、ヒークル様と違って、『女王様に踏まれることを無上の喜びとするブタ野郎』ではないと言っているんです。この『踏みつけ』を、ご褒美だと認識なされるのは勝手ですが、みんながみんな、ヒークル様と同じ趣味嗜好を持っているわけではないんですよ。ご理解いただけましたか?」
バチバチに煽られたヒークルは、
怒りを通り越した顔で、
目をかっ開き、
「貴様……正気か? この私を……『醜い豚』と愚弄したのか? 信じられん……信じられんぞ……生きて帰れると……思うなよ……」
そこで、ヒークルは、感情の暴走に任せて、
「うらぁああああああああああああああああ!! うら、うら、うらぁあああああああああ!」
何度も、何度も、何度も、何度も、
センの頭を、全力のカカトで踏みつけていく。
本気の殺気。
先ほどまでとは違う『絶対に殺してやる』というガチガチの本気。
だが、どれだけ全力で踏みつけても、
センは、
「……ふぁ~あ……あの、ヒークル様、まだ飽きませんか?」
アクビ交じりにそう言ってから、
「まだよくわかってないようだからハッキリ教えてあげましょうか? ムダなんですよ、俺を殺そうなんて。ヒークル様なんかが、どう頑張ったって」




