215話 どうする?
215話 どうする?
『最初から本気で挑めば、勝てる』……と、ヒークルは本気で思っていた。
ガリオに『救援はいらない』と言ったのも、当人的には、無理をしていたのではなく、『万全の準備をすれば勝てる』と本気で思っていたから。
……しかし、そのプライドがコナゴナになっていく。
目の前にいる、このクソアンデッドは、
ヒークルが想定していたよりも、かなり強い。
(どうする……どうする……どうする……)
カイは、支援特化だから、攻撃させても、タカが知れている。
パーリナンは、オールラウンダータイプで、攻撃もそれなりに出来るが、正直、そんなに強くない。
ヒークルをボコボコにするような怪物が相手では、ほとんど何もできないだろう。
ヒークルは理解する。
この状況は詰んでいる。
このまま、ずるずると、ダメージを受け続けて、
いつか、どこかで、体力が尽きて、
そして、三人とも殺され、
街の人間もみんな死ぬ。
(街の人間だの、部下だの、パーリナンだの、魔人だの……そんなものはどうでもいい……そんなことより、大事なのは私の命……死にたくない……死にたくない……)
ヒークルは、ストイックな求道者。
だからといって、精神的に優れているかと言うと、決してそうではない。
山ほど体を鍛えて、唸るほど敵の殺し方を学んでも、だからって、心も同時に育つわけじゃない。
武道だの、スポーツだの、そんなもんをいくら頑張ったところで、同時進行で心を鍛えることはできない。
またまた野球で例えるが、高校野球や大学野球をやっている連中の大半は、下級生をイジメて喜んでいるクソばっかり。
――そこで、セラフが、
ヒークルを強く睨みつけ、
「そろそろ理解できた頃だろう? 貴様では私には勝てない。……そして、今回は逃がさない。貴様は、確実に、今日、ここで死ぬ」
おどろおどろしい声で、そう宣言する。
ヒークルは、脂汗と冷や汗を同時に、顔に浮かべながら、
心の中で、
(……こ、このままだと私は死ぬ。どうやって逃げる? ……パーリナンとカイを囮にするのは確定。問題は、そこから先。この雑魚二人じゃ、大して、足止めできない。……街の人間も囮にして、その間に逃げるか。そうだな。そうしよう。いくら、この糞アンデッドでも、あれだけの数の人間を皆殺しにするには、多少の時間がかかるだろう。……問題はその後。逃げ切ったあとで……ガリオ様にどう報告する? ……私の評価を下げることなく、ここから、無事逃げ切る方法……思いつけ……私なら、思いつくはずだっ)
必死になって、
『完璧な逃亡方法』を模索するヒークル。
頭の中で、何度もシミュレーションをする。
(屋敷に飾ってある、ガリオ様から賜った宝剣。……あれは、高価なだけで、何の力もないが、そんなこと、パーリナンもカイも知らない。『実は、あの宝剣には、魔を封印できる力がある』……という設定にして、『すぐにそれを取りにいってくるから、その間、なんとか時間を稼げ』……と言えば、信じるんじゃないか?)
カイもパーリナンも、宝剣の概要は知らないが、飾られている様子は、ずっと見てきている。
(……よし。それで行こう。そして、街に戻ったら、気配を消すアイテムや装備をフル活用して、糞アンデッドにバレないよう、ソっと街から出て、ガリオ様の城に向かう。もし、街の人間を皆殺しにしたあとで、それでも、しつこく追いかけてきたとしても、ガリオ様なら、アンデッドごときに負けるわけがない。このプランなら、逃げ切るのは確実に可能。問題は、評価を落とさない方法。せっかく、ここまで築き上げてきた地位を、こんなカスにすべて台無しにされてたまるか……なにか……いい言い訳……なにか……)




