214話 龍毒。
214話 龍毒。
龍の形状をした毒の波動が、
まるで意思を持っているかのように、うねうねと身を震わせながら、この場にいる生き物を全て飲み干そうとするような動きを見せる。
「「「「「ぐぁああああああ」」」」」
セラフの龍毒に触れた者たちは、みな、例外なく猛毒に犯され、白目を剥き、盛大に吐血する。
えげつない火力の魔法なので、
本来であれば、この一撃で、
この場にいる100人全員死ぬが、
闇色領域が展開中なので、
誰一人死ぬことなく、
終わらない猛毒地獄に苦しんでいる。
「うごえぇえ!!」
「ぐごぇええええ!!!」
「がへぇええ!!」
苦しんでいる部下たちを見ながら、
ヒークルは、
「ぐぬぅう……」
と、忌々しそうに歯噛みする。
龍毒のターゲットになったのは、突撃した100人の部下だけで、
ヒークル、パーリナン、カイの3名は無傷のまま。
――『死ぬことも気絶することも許されず、その場で、ひたすらのたうちまわり、苦しんでいる100人の精鋭たち』をそのままに、
セラフは、
ゆっくりと、
ヒークルたちの近くまで歩き、
「……ガリオ直属十七眷属のヒークル。今日こそ、貴様を殺す。もう逃がさない」
「逃がさないってのはこっちのセリフだ。私の配下を速攻で始末したのは見事だが、それだけ大量の魔力を使ってしまえば、もう高クオリティの魔法は使えまい。八つ裂きにして殺してやる。覚悟しろ」
そこで、ヒークルは、セラフを睨んだまま、後ろにいるパーリナンとカイに、
「これほどまで消耗した奴が相手なら、私一人でも勝てるだろうが、念には念を入れて、とことん丁寧に叩くぞ! ありったけのバフをよこせ!」
命令に従い、
二人はヒークルに無数のバフ魔法を重ねがけしていく。
かなり強化されたヒークルは、
でっかい剣を構えて、
「死ねぇえええ、糞アンデッドォオオオオ!!」
そこから始まった、ヒークルとセラフの死闘。
セラフは、センの命令に従い、『出力を存在値100以下』に抑えて、ヒークルと対峙した。
その結果、ヒークルは瞬殺されることはなく、
『ジリジリと削られる』という、
――正直なところ、一番絶望的なやられ方をすることになる。
どうせ死ぬなら、いっそ、一撃で首を刈られる方が、遥かに楽だと言えよう。
「ぐっ、くそぉおお! パーリナン、カイ、もっとだ! もっとよこせ」
パーリナンも、カイも、本音のところで言えば、
『ヒークルに死んでほしい』と思っているが、
しかし、この状況では、その本音に振り回されることなく、
キチンと、ヒークルの命令通り、ヒークルの全力支援に徹した。
パーリナンもカイも、どちらも、かなり有能なサポーターであり、
その全力支援を受けているヒークルは、存在値も戦闘力も世界屈指。
だが、
「ぐぅうう! ぐぅうううう! クソがぁああああああ!!」
どんどん押し込まれていく。
……はた目には、そこそこ『まともな勝負』をしているように見えた。
ヒークルの方が明確に押されているが、ヒークルだって、それなりに反撃しているし、その反撃で、セラフの身体には傷ができたりもしている。
野球で言えば、7対2で負けているという印象。
『明確な実力差はあるが、コールド負けにはなり切らない』という半端なワンサイドゲ―ム。
「はぁ……はぁ……はぁっ! ち、ちくしょぉおお……ちくしょぉおおお!!」
これだけシッカリと真正面から戦えば、
ヒークルもアホではないので、流石に、
彼我の力量差みたいなものがデジタルに見えてくる。
『このままだと絶対に勝てない』という具体的な未来に包み込まれて絶望。
昨日戦った時は、自分で言った通り、確かに油断していた。
たかがモンスターと、ナメてかかった。
その結果、初手で大ダメージを受けてしまい、結果、ずるずると敗北してしまった。




