212話 私が次の十七眷属に……
212話 私が次の十七眷属に……
「パーリナン様は命の恩人です」
と、そんな風に、礼を言うカイに、
パーリナンは、渋い顔で、遠くを見つめながら、
「……私は、お前を助けたわけではない。ただ、『道具を手荒に扱うのはバカのすること』だと思っているだけ。武器を無意味に壊して、なんの得がある。……特に今は、謎の強大なアンデッドに襲撃され、少しでも戦力が欲しいところだというのに、わざわざ、使える兵器を、自らキズモノにするなど……意味が分からない」
深く、タメ息をついてから、
心の中で、
(もう、ヒークル様の下にはいたくない。ガリオ様の命令でなければ逃げている。……正直なところ、ヒークル様とは、相性があわない。私は、愚か者の下にはつきたくない。もう、いっそ、ヒークル様には死んでほしい。そうすれば、私が次の十七眷属になれる……)
流石に口には出せない本音を吐露する。
パーリナンは、自らの意志でヒークルの下についているわけではない。
パーリナンは、『候補生』と言われている『次期十七眷属候補』の一人。
十七眷属の誰かが死んだ場合、候補生の中から、次の十七眷属が選ばれる。
候補生は、常に、だいたい20人ほどいて、全員、存在値40~50ぐらい。
当然、魔人は一人もいない。
『候補生』は、十七眷属の側近としてつくことが多く、
十七眷属の元で、十七眷属としての仕事を学び、
『万が一』があった時は、いつでも、十七眷属として働けるよう、日々、研鑽を積んでいる。
パーリナンは、天を仰ぎながら、心の中で、
(……今、ヒークル様が死んだ場合……私が十七眷属に上がるだろうか……いや、現状だと、タンピマス様についている『ザピアン』の方が評価は高い。現状では、彼女が候補生筆頭。……この街の支配に関して言えば、私が繰り上がった方がスムーズに事が進むが……その辺は考慮されず、ザピアンが十七眷属として、ヒークル様の後釜につき、私は、その副官になるだろう。……領主の仕事など、どこも変わらない。タンピマス様のもとで研鑽を積んだザピアンなら、数日で、この街の特質を理解して、うまく回せるようになるだろう。……『純粋な強さ』で言えば、ヒークル様の方が圧倒的に上だが、街の内政に関して言えば、ザピアンの方が遥かにうまくやれるだろうな)
ザピアンの存在値は52で、ギリギリ、パーリナンよりも彼女の方が上。
存在値だけではなく、要領の良さなんかでも、ザピアンは、パーリナンを上回っている。
パーリナンは、ストイック求道者ヒークルの元で研修を積んだため、戦闘力的には、ザピアンを超えているが、大幅に超えているというわけでもない。
『上(龍神族や上位の十七眷属)』からの評価は、結局のところ、ザピアンの方が上という結論にいたる。
(……どっちがマシかな。ヒークル様の副官をするのと、ザピアンの副官をするの。……どっちも嫌だな。いっそ、ヒークル様も、ザピアンも、あのアンデッドに殺されれば……そうなると、次は私が死ぬな……はぁ……まったく……人生というのは、ままならないものだな。何一つ、思い通りにならない)
タメ息が止まらない。
……年若く十七眷属の候補生となり、
『あと数歩で十七眷属になれる』というところまできていながら、
しかし、それでも、『自分の人生はままならない』と嘆く。
平民からすれば、『スーパーエリート街道まっしぐら、人生バラ色』のパーリナンだが、彼は、いつも、『まったく思い通りにならない』と嘆いている。
地位に固執する人間というのは、どうなっても満足しないもの。
★
――翌日の朝、
体力を回復させたヒークルは、
さっそく、精鋭100人ほどの部隊を引き連れて、セラフのもとへと向かった。
セラフは、カラルームの街の南東、
毒の沼が広がっている湿地帯で、
『骨や死体で構成された居城』を構えて、
カラルームの街襲撃用の『拠点』にしている。




