211話 努力。
211話 努力。
――ヒークルは、パーリナンの忠言に対し、
イライラ顔で、
「あんなもん、なんの権力も持っていない、ただのガキだろうが! ガリオ様が親だという、ただそれだけの、ただただ運が良かっただけのバカ女だというのに、偉そうにされて、たまったものじゃない!」
クロッカに対するイライラを、カイにぶつけるヒークル。
ガツンと、カイの顔面をぶん殴る。
今回は、先ほどのリミッター解除暴走と違い、最低限の手加減がされていたので、パーリナンは黙って見過ごした。
パーリナンも、別に、魔人擁護主義の人権派というわけではない。
カイという『道具』を意味なく壊されると、『組織』として困るというだけ。
ヒークルは、カイを殴りつつ、
「俺は努力してきた! あのガキが生まれる前からずっと! 人間としての格と質と品は、あんなガキよりも、俺の方が上だ! そうだろう!」
自分の価値を叫ぶ。
努力してきた者特有の驕り。
『頑張ってきた者が一番偉く、偉い者は、何をしてもいい』という傲慢な思想。
……とはいえ、現状、ヒークルが暴力をふるうのは、魔人が相手の時だけで、
パーリナンや、他の人間の部下や、街の住人などに、暴力をふるうことは……まったくないとは言わないが、ほとんどない。
ただ、ここに関しては、魔人相手の暴力で発散できているので、人間相手にパワハラをかますには至っていないというだけで、もし、魔人が消えて、ストレス発散の対象がなくなれば、普通に、部下相手に『パワハラ(物理)』をかましていくことだろう。
彼はそういう人間である。
ヒークルは、決して、魔人だけを狙い撃つ特異性癖の変態ではなく、普通に、『パワハラ体質の求道者』という感じ。
「答えろ、虫けらぁ! 私の方が上だろう!!」
そう叫びながら、カイを蹴り飛ばすヒークル。
カイは壁に激突し、軽く血を吐いた。
服の袖で、口元の血を拭いつつ、
「はい……ヒークル様の方が上です」
と、イエスマンに徹するカイ。
ちょっとでも反論などしようものなら、殺されてしまうから、イエスマンにならざるをえない。
ちなみにカイは、バカではないので、本心ではもちろん『クロッカの方が上』だと思っている。
――そんなカイを尻目に、
パーリナンが、ヒークルに、
「ヒークル様。カイの言葉をなぞるわけではありませんが……今日は、流石に、おやめになった方がよろしいかと存じます。回復魔法で、ケガは戻っても、体力は戻りません。今の状態で、あのアンデッドと戦えば……最悪、命を落としてしまうかもしれません」
「この私が、あんなクソアンデッドに負けるというのか!!」
怒りに任せて怒鳴りはするが、パーリナンには手を出さないヒークル。
ほかの部下の場合、人間であっても、たまに手を出してしまうこともあるヒークルだが、
有能な副官であるパーリナンに対しては、
流石に、『ライン超えのパワハラ』をかますことはない。
「負けるとは思っておりませんが、確実に勝てるという見込みもございません。再戦は、万全の体制を整えてからがベストです。あなたは、この街の最大戦力。死なれては困ります」
「……ちっ……」
パーリナンの言葉は、もっともだったので、
ヒークルは、何も言わずに引き下がった。
『今夜は、いったん、休息をとり、明日の朝、部隊を引き連れ討伐に向かう』
ということで決着がついた。
ヒークルの寝室を出たパーリナンは、
後ろにいるカイに、
「……今日は、もう帰っていい。明日の闘いでは、全力のサポートを頼むぞ。お前がいないと、あのアンデッドには勝てない」
と、そう言葉を投げかけた。
カイは、一度、深くお辞儀をしてから、
スっと顔を上げて、
「パーリナン様……先ほどは、ありがとうございます。ヒークル様の折檻を止めていただき、助かりました。今回は、流石に……死にかけました。パーリナン様は命の恩人です」




