209話 噂の邪神。
209話 噂の邪神。
――呆れ口調で、伝説を揶揄するフチアを尻目に、
ガリオが、冷めた顔で、
「……存在値500というのは、さすがに、誇張だろうが……『存在値200ぐらいの、とんでもない化け物が、この世界のどこかに眠っているという可能性はゼロではない』というのが私の考えだ。いないなら、いないで構わないし……いた場合は、処理しないといけない。それだけの話」
「……はぁ」
「案外、カラルームの街周辺に現れたアンデッドというのが、噂の邪神かもしれないぞ。ヒークルが手も足も出ないというのは、相当だろう?」
「確かに、とんでもないモンスターだと思います。ただ、ヒークルからの報告によると、存在値80ぐらいだという話……」
「太古から恐れられていた邪神が『存在値80ぐらいの、ちょっと強いモンスターでしかなかった』……としたら、かなり笑える話だと思わないか? いったい、人類は、これまで、何に恐れていたのだろう、と」
「まあ……そうですね」
「笑える話であったなら、それでいいし……そうでないのなら、もしもの時のために、準備をしておかなければいけない。それが私の……真なる王の仕事であり責務だ」
★
ガリオの城を後にして、
カラルームの街に向かったセンは、
その道中で、
(セラフ……)
セラフィムスパーダに、通信の魔法をつなぐ。
すると、遠く離れた地、『カラルーム周辺で暴れているセラフ』は、即座に、
(およびですか、尊き王よ)
と、慇懃に答えてきた。
セラフの忠誠心は、かなり高い。
あまりに高すぎて、センは、普通に引いている。
(……セラフ、俺は、王になる気はねぇよ。『センエース』とかいう『クソ厄介キングフリーク』に粘着でもされたらたまんねぇからな。……なんだかんだ、『流浪の平民』が一番、自由で独りで豊かで静かで救われている。王になるってのは、牢獄に入るみたいなもの。暗くて、せまくて、怖くて、震える)
などと、『どうでもいいファントムトーク』の中に、ちょっぴりだけ、『本音』をまぶしつつ、
センは、セラフに、
(計画通り、ガリオは、俺に、お前の討伐任務を命じてきた。俺が到着するまで、とりあえず、カラルームの街にいるカス共を、グッチャグチャにしておけ。ただし、最初から言っている通り、誰も殺すなよ。誰を殺すかは俺が判断する。お前は何も背負わなくていい。このマッチポンプ計画の責任は、全て、俺がとる。分かったな)
(おおせのままに。この上なく尊き命の王よ)
(この上なく尊きって……俺ごときが『てっぺん』だったら、この世界、終わりだよ。王っていう大事な職業は、もっと、まともなやつがつくべきだ)
★
――ここは、カラルームの街。
この街の中心に建てられている『最も大きな屋敷』が、
十七眷属『ヒークル』の家。
ヒークルは、寝室のベッドの上で、ボロボロの身体に回復魔法をかけつつ、
「もう一度出るぞ! あのくそアンデッド、今度こそぶっ殺してやる」
つい先ほど、セラフにボコられて帰ってきたばかりだというのに、
鼻息あらく、そうまくしたてる。
人間性はともかく、『戦士』としては非常に優秀な男。
それがガリオ直属の十七眷属『ヒークル』。
存在値は58ぐらいで、十七眷属の中だと、そんなに高いわけではないが、
これまでの人生、武の鍛錬を惜しまなかったので、戦闘力はかなり高い。
それゆえに、プライドも高く、
己の『無様な敗北』が許せない。
先ほど、セラフに、ガッツリと殺されかけているので、普通に、かなりボロボロの状態だが、それでも、関係なく、再戦を求めて屋敷を飛び出そうとするヒークルに、
――配下の魔人である『カイ』が、
「そ、そのお体では……む、無理ではないでしょうか」




