208話 ヒークル。
208話 ヒークル。
「最近、街の周辺で、『強大な力を持った不死種のモンスター』が暴れているとのこと。ヒークル自身が迎え撃ったが、歯が立たなかったようだ。当人からは『ギリギリの闘いだった』という報告を受けているが、側近からの補足報告によると、『ギリギリのところで逃げることはできたが、かなりの負傷を受けた』ということらしい。ヒークルはプライドが高いから、モンスターにボロ負けしたなど言えなかったのだろう。……ヒークルが手も足もでないモンスターなど、相当だ……」
ガリオ直属の十七眷属『ヒークル』。
年齢は50代のおっさん。
存在値的には58ぐらいで、十七眷属の中だと中堅ぐらいだが、構築ビルドが、先天的にも後天的にも『完全戦闘特化』で、かつ、『暇がなくとも武の修行をしているタイプの求道者型』であるため、戦闘力もかなり高い。
普通にタイマンで殺し合った場合、『存在値70を誇るカソルン将軍』でも勝てるかどうか微妙という、相当な実力者。
実際、ヒークルは、過去に、『覇鬼(存在値80近い鬼)』を単騎で撃退したこともある。
※『普通の戦闘力の存在値50台』の冒険者だと、3人がかりでも、覇鬼を倒すのは厳しい。ヒークルが倒した覇鬼は、かなりの雑魚個体で、存在値72ぐらいだったが、それでも、大したもの。だからこそ、プライドが非常に高く、『モンスターに大敗した』などとは口が裂けても言えない。
「ヒークルは『支援不要』と言っているが、支援なしでは、おそらく、街が落とされてしまう。というわけで、センエース。そのアンデッドを殺してこい」
「ああ、ダメですね。そのアンデッド、実は俺のペットのセラちゃんなんで。うちの子、しっかりと運動させないと、ストレスがたまって、すぐに病気になっちゃうんで、テキトーな街で暴れさせているんですよ。うちの子の精神安定のためにも、カラルームの街には犠牲になってもらいます。犠牲の犠牲にな」
「……」
「どうしました? 俺の顔になにかついていますか?」
「……これ以上、貴様のくだらない冗談に付き合う気はない。さっさと行ってこい」
「つれないですねぇ。カワイイ犬が渾身のボケかましているんですから、ノリツッコミの一つや二つ――」
「行け!」
「はーい、了解でーす」
そう言いながら、センは、ガリオの部屋を後にした。
センと入れ替わりで、ガリオの部屋に入ってきた『ガリオ直属』の配下『フチア』が、
ガリオに、
「よろしいのですか? あそこまでの『好き放題の言動』を許して。『ガリオ様から、直接の命令を賜っている』というのに、光栄に思うどころか、下らない冗談で返すなど、あってはならぬこと。流石に目にあまるのですが……」
「あの駄犬には、『いつかどこかで、必ず死んでもらう』が……正当な手段で首を落としたりはしない。任務で使い潰して過労死させる。できれば、カドヒトと相討ちしてほしいな。もしくは、邪神と相討ち。……なんでもいいが、とにかく、仕事で死んでもらう。その方が合理的だ」
「……邪神……ですか……」
「合理を謳っているくせに、邪神は信じているのか、と私の不合理性を笑うか?」
「いえ、笑いはしませんが……実在するとは思えません。伝説通りなら、邪神の力は、存在値500以上とのこと。……流石に、そんな生命が存在するわけがない……と私は思います。その数字は、いくらなんでも冗談が過ぎる。子供同士の嘘でも、もう少し、リアリティを重視しますよ」
常識的な大人の視点だと、存在値500というのは、『フーデ〇ンの知能指数』みたいなものである。
『このモンスターの知能指数は5000です』と言われたら、まともな大人は『はいはい』という冷めた反応で返すだろう。




