201話 楽しい犬。
201話 楽しい犬。
「……殺されたいのか?」
「私を殺すと、クロッカ様が泣きますよ。そりゃあもう、わんわんと」
「……」
「どうです? 楽しい犬でしょう? 時折、本気でイラっとするかもしれませんが、慣れると、軽くイラつくぐらいで済む……可能性が無きにしもあらずんば虎児を得ず」
「……貴様を側においているクロッカの気がしれん。昔から、あの子は、何を考えているか分からん」
「そうですか? クロッカ様は、かなり単純だと思いますよ。いわゆるアホの子です。叶うわけがない夢を見続けている痛い子。……あ、今のは内緒でお願いしますね。本人や親御さんの耳に入ったらコトなので」
シーっと、『内緒ですよジェスチャー』を取りつつ、
センは、自分の両腕両足に開いた穴を、治癒魔法でふさいでいく。
その様子を見ながら、ガリオは、
センの戯言を一旦シカトして、
「……洗練された回復魔法……確かに、実力はなかなかのようだ」
「ええ、なんせ、私は世界最強なので」
「……世界最強ねぇ。つまり、貴様は、私よりも強いと?」
「その気になれば二秒で殺せますね。体調が悪いと三秒かかりますが。……基本は3秒以内で余裕なんですが、例外的に、扁桃炎が出ている時だけ、5秒かかりますね。俺、扁桃炎が出た時は、40度近く熱が出て、意識が朦朧とするので」
「……冗談を口にしていないと死ぬ病気にでもかかっているのか?」
「まさに、その通り。完全な病気なんです。かわいそうでしょう? その上で、実に楽しい犬でしょう? お喋り型のピエロだと思って接していただければ幸いです。どうです? 飼ってみます? 『おしっこの場所をなかなか覚えられない』という欠点がありますが、それ以外は、けっこう優秀な番犬ですよ」
そんなセンの軽やかなトークに対し、
ガリオは、
「……そこまでナメた態度を徹底して……殺されると思わないのか?」
「アホな犬がキャンキャン吠えているだけですよ。『その程度で激昂するようなアホは、王の資格がない。だから、いくらでも吠えるがいい』と、この前会った時に仰っていたじゃないですか。やだなー、もう。忘れたんですか?」
「貴様と私は、今この瞬間が、初対面だが?」
「え、そんなバカじゃ……じゃあ、この前であったガリオ様はいったい……もしかして、ドッペルゲンガー?! こわっ! しんどっ!」
と、ブルブル震えながらそんな事を言うセンに、
ガリオは、
「愚かしさを許容することが『器の大きさ』だと勘違いするほど世間知らずではない」
そう言いながら、薬指ではなく、掌全体を、センに向けて、
「次、一言でもナメたコトを口にしたら……殺す」
と、そう宣言する。
そんなガリオの目をジっと見つめながら、
まっすぐに、
センは、
「ナメたコト」
と、とことんナメ散らかした言葉を口にした。
ガリオは、眉間にシワを寄せ、
「光撃ランク8」
普通に本気の殺意を込めて、
最高位の魔法を放った。
巨大な魔法の一撃がセンを襲う。
ランク8の魔法が、センの全身に直撃。
そこらの一般人であれば、一瞬で跡形もなく蒸発してしまう程の魔法。
有能な十七眷属の面々であっても、瀕死は免れない……それほどの一撃を受けていながら、
センは、
「……おー、痛ぇ……流石、ガリオ様。美しい一撃でした。それほどの魔法を放てる者は、世界広しと言えど、龍神族の御方々だけでしょう」
「……私の光撃ランク8を耐えるか……信じられんほどの肉体」
顎をしゃくりつつ、
「少なくとも、壁としては最高クラスに優秀だ。認めよう」
「タンクだけではなく、アタッカーとしても有能なんですよ。見てみます?」
そう言いながら、センは、人差し指に魔力を込めていく。
ガリオは、そんなセンの挑発に対し、
少しだけ頭を回してから、
「……」
クイクイっと指を動かし、『撃ってこい』のジェスチャーを決め込む。
命令を受けると同時、
センは、
「雷撃ランク7」




